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神経内科

則行先生便り

第3回 「健康になりたい」あなたへ

 あっ、どうもコンニチハ。今日は患者さんがとても少なくて外来がヒマなんですよ。いい時にあなたにお会いしました。もしお時間があれば、少しだけ私の話にお付き合い願えますか? 今、お茶を持ってきますね。ちょっと待っていてください。 

 最近年をとったせいか色々なことを考えるのですよ。人生のこと、仕事のこと、世間のこと・・・。その中で特に関心があるテーマの一つが「健康」なんです。日頃、我々が呪文のように唱えている「健康」って一体なんだろうって思うと、これがまた難しい問題であることに気がついたのですね。

 

 従来、WHO(世界保健機関)はその憲章前文のなかで、「健康」を「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」と定義してきました。しかし平成10年頃よりこの定義に改正を望む意見が国際的に多く聞かれるようになり様々な議論がなされてきています。それでも今なお完璧な健康の定義は確立されていないのが現状です。そこで私流に健康を定義してみました。「身にも心にも痛み・苦しみがなく、活力をもって生活できている状態」ということになるでしょうか。でもこのような方は今の世の中、なかなかいませんよね。(苦笑)いすれにせよ「健康であること」は「病気を有していない」ことと同じ意味ではない、ということは間違いないですね。逆に言えば、病気を持っていても健康でいられる、ということになります。今、世間では「健康であること=病気にならないこと」という考えが主流になっているように私には思えます。あなたはどうお考えになりますか?

 

 ご存じのように、巷(ちまた)には数多くの健康に関する本やテレビ番組が流行しています。いつの時代にあっても「健康であり続けたい」「病気になりたくない」という人々の思いは共通しているでしょうし、また日々のニュースでお馴染みの環境ホルモン、狂牛病、オゾン層破壊、水質汚染や食品品質管理の不安なども重なった結果、特に現代社会は健康への関心がいやが応にも高まる時代といえそうです。加えて生活の欧米化(この言葉も死語になりつつある・・・。)に伴う心臓病、癌の増加も確実にそのことに拍車をかけていますね。だから健康になるためのノウハウは確かに重要視されるべきだとは思うんですけど・・・。

 

 最近ちょっと気になることがあるんです。内科外来に来られる患者さんの中に安易な民間療法(健康法)に頼り切ってしまっている方をよく見かけるようになりました。どうもここ数年の間に起こってきた現象のようです。いわゆる「健康ブーム」が発端でしょうか。一昔前に比べて日常生活の中で、書籍やテレビ番組から健康法に関してたくさんの知識を得ることが容易になっていますよね。例えば新聞のテレビ欄を見ても「~は健康によい。」「私は~を食べてこの病気を克服した。」「ボケない食事」「これを食べて癌を予防しよう。」といったたぐいの番組を簡単に見つけることができます。その健康ブームの「申し子」ともいうべき方々が確実に外来患者さんの中に増えてきているんです。(「グルメブーム」の後に「健康ブーム」の到来です。なんだか笑えますね。)

 

 このようにお話しすると、きっとあなたは思うでしょう。『お前は「健康ブーム」に批判的のようだけど、結局みんなが健康になってお前の商売が成り立たなくなるのがイヤなんだろう。』と。実はその通りなんです!(笑)いえいえ、私は決して「健康になること」「健康になるために努力すること」を否定しているわけではないのです。問題にしたいことはですね、何でもかんでも無節操に巷(ちまた)の健康法に手を出すやり方が多くの人たちの間で流行っているということなんです。しかもたいていの場合、その健康法の実践が三日坊主に終わっていて持続できていないことが多い・・・。本当にこれは大問題だと私は思っているんですよ。ちょっと極端な例えになりますが、ある日あなたが自称「金儲(もう)けのプロ」と名乗る人から次のように言われます。『儲(もう)かる話があるよ。必ず金持ちになれるから私の言うことをききなさい。今すぐに現金ウン十万円を準備してこちらに渡しなさい。』と。これを聞いてあなたは億万長者になりたいがために話の内容をキチンと吟味せず単純に信じ込んで、その人にポンとお金を渡してしまいますかねえ? もちろんお金持ちになれる可能性はあるかも知れないけれど、今の世の中こんな話はリスクが大きそうですよネ。(う~ん、やっぱり例えが極端かも知れません・・・。)ある健康法を盲目的に信じ込むのは、このような行為と同じことのように私には思えるのですよ。

 

 こんな話があります。一時期『ココアが大変身体によい。』という健康法が世間に流れて、ほんのちょっとの間ではありましたがスーパーマーケットの店頭から(僕の大好物の)ココアが姿を消したことがあります。そして時を同じくして外来で糖尿病の治療をしていたある中年の女性の血糖値が急上昇したのであります。おかしいなと思ってよくよく彼女に事情を聞くと、最近健康のためにココアを愛飲するようになったとのこと。すると今度は私の血糖ならぬ血圧が急上昇しましたよ!(怒)だってそれまでその方の血糖値は安定していましたからね。健康になりたいという気持ちからとはいえ、医者に何の相談もなく独断で始めた健康法が見事に血糖を高くしてしまったのです。これでは何のための健康法やら!!

 

 ここで『理想の健康法』について私の考えを述べさせてくださいね。
ポイントは3つあります。まず一つめ。健康法を選択するに当たって極めて大切なことは、自分がしっかりと自分自身の身体の弱点を認識することでしょう。身体の弱点を補強するための「健康法」ならば理にかなっています。採血でコレステロール値の正常な人が一生懸命になってコレステロールを下げるための食事をとる必要はないでしょう。漠然と「健康になりたい」ということではなくて、『弱点補強の目的意識をもって行なう』健康法なら僕は理解できます。要は手さぐり的な健康法はダメということです。だから健康のための手段とはいえ、実施前には一応かかりつけの医者に相談してみてくださいね。

 

 2つめ。正しい健康法を『継続』させること。このことはとても大切ですね。逆に言いますと、いくら正しいやり方だとしても継続できそうもない健康法では全く役に立ちません。だから健康法は「ブーム」ではイカンのです。一時的に流行(はや)るだけのような健康法は「イカサマ」とまでは言わないけれど私は信用できない。簡単なことでもキチンと続けられる無理のない健康法をお勧めしたいものですな。

 

 最後に3つめ。その時々の体調に応じて路線が変更できる「柔軟な健康法」であること。かたくなに信じこんで修正のきかない健康法は時に身体を壊すことがあるのだと知っておいてくださいね。ちょっと昔のことですが、私の外来を受診されたある患者さんがこんなことをおっしゃってました。『そもそも生きていることが一番健康に悪いんだから、窮屈(きゅうくつ)な考えでいくより、ゆったりとした気持ちで病気の治療に取り組みたいもんだねえ。』と。名言!!(笑)

 

 ある有名なお昼のテレビ番組が今までに紹介した健康法をすべて数えあげると全部で2万弱もあるそうですよ。あなたは「健康に良いから」といって一日に2万弱の健康法を同時に実践できますか? 逆に健康を損ないそうですねえ。「健康とは何ぞや?」という問題に頭を抱える日々がまだまだ続きそうです。しかし、難病をかかえつつも大らかに前向きな気持ちで生きておられる方こそ真に健康と言えるのかも知れません。
私はそのような方からその「健康法」を聞いてみたいものだと常々思っています。

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