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神経内科

則行先生便り

第4回 「目が疲れる」あなたへ

 今回のテーマは「疲れ目」です。一見、内科と無縁に思われる疲れ目について、お話させていただこうかと思います。

 もし目に症状が現れれば、皆さま方は当然眼科を受診されるわけなのですが、実は疲れ目に関しては私の専門であります(神経)内科に密接に関係してきます。というのも疲れ目は単に目だけの症状で終わることが少なくて内科的な症状、例えば頭痛や吐き気などが初発で起こり、よくよく調べたら疲れ目が原因だったということがよくあるのです。ここでは皆さまに疲れ目に対する知識をお教えし、その原因や簡単な対処方法をお話ししましょう。疲れ目が思い当たる方はきっと多いはずです。ぜひ興味をもってお読みくださいね。

 「疲れ目」とは何か。まずは最初にここのところをはっきりさせておきましょう。
専門書によっていろいろな定義がありますが、その共通するところを要約するとおおかた次のようになります。『疲れ目とは、目を使う作業に際して目の疲労が著しく、視力の低下や目の痛み、頭痛、肩こり、時には吐き気やおう吐などをきたす状態をいう。』

 この定義をご覧になれば、先ほど私が言いました疲れ目(専門的には眼精疲労(がんせいひろう)といいます。)と内科との関連がわかっていただけると思います。頭痛、吐き気といった症状があれば、多くの方は間違いなく内科を受診されることでしょう。疲れ目はかなりの確率で内科的な症状を引き起こすことがわかっていますので、われわれ内科医は眼科の病気も念頭に置いて日々の診療にあたらなくてはなりません。ですから、頭痛、吐き気を訴えられている患者さんに対しては、その原因として脳の病気ばかりでなく、疲れ目も一応疑うということになります。それにしても酒井病院の外来に頭痛で受診される患者さんに疲れ目と肩こりの合併がなんと多いことか! 極端な例では、疲れ目を治しただけで数年来苦しめられていた頭重感や肩こりから解放された、なんて方もいらっしゃいます。

 それではなぜ疲れ目が起こるのかその原因を一つ一つお示しし、簡単な対処法をお教えしましょう。ちょっとばかり専門用語も飛び出すかとは思いますがお許しください。(詳しく解説しますのでご心配なく。)

1)調節性眼精疲労 (目の筋肉を過度に酷使した場合に起こる疲れ目)
 このタイプの疲れ目が一番多いような気がします。さて、ここで知識としてぜひ知っておいていただきたいことがあります。近くのものを見たりとか遠くのものを見たりという視力の調節の仕組みに関してですが、実はこれは目の表面にある小さな小さな筋肉の働きによるのです。そうですねえ、近くのものを見る時にその筋肉は縮み、遠くのものを見る時にはゆるむという風に考えていただければよいと思います。

 したがって、近くのものをじっと見っぱなしだったり、度の合っていないメガネをかけたり、長い時間遠くと近くのものを何度も何度も見比べたり、近視を有している方が無理に遠くの一点をじっと見たりすることで、先ほどの筋肉が疲労状態に陥ってしまい、結果として疲れ目を引き起こすことになると思います。極端に明るい場所や暗い場所で目を使う作業も同様でしょうね。

 このタイプの疲れ目予防のポイントは3つあります。
それは、姿勢、明るさ、時間です。まず姿勢。これはパソコン、デスクワーク等に代表されますが、皆さんいつの間にか前かがみの姿勢になってしまっていませんか? 目標物と目の距離が近ければ近いほど目の疲労度は倍増しますし、首に頭の重さが不自然にかかりますので首筋の痛みや肩こり、腰痛が容易に起きますよ。まずあなたの姿勢をチェックしてみてください。

 次に明るさ。これはなかなか難しい。極端に明るすぎても暗すぎても目は疲れます。人によって作業環境の違いがあるので一概には言えないのですが、適当な明るさは疲れ目防止にとても大切な要素です。あなたの作業環境を反省なさってみてくださいね。

 次に時間。特に近くのものをあまりに長い時間凝視していると確実に目は疲れます。人間だってもともとは野生の動物です。野生の中で暮らすためには当然外敵から身を守らなくてはいけませんよね。敵や獲物が遠いところにあることを確実に見なければいけないのです。だから目というのは、元来遠くを見るのに適しているような構造になっているのです。(筋肉は弛んでいる方が疲れませんね。前述の説明を思い出してみてください。)

 ですから疲れ目予防のため、あなたは長い時間机に向かわなくてはいけない時には必ず目の休憩時間をとるようにしてください。そうですねえ。人にもよりますが30分の作業に3~5分くらいが目安でしょうか。またあまりに一生懸命に近くのものを見ることに集中し過ぎますと、まばたきの回数が急激に減り今度は『乾き目』というこれまた厄介な状態をつくり出すこともありますので注意してください。作業の内容によっては疲れ目用の目薬が効果的です。

2)筋性眼精疲労 (目の筋肉の異常によって起こる疲れ目)
 これはもともと目の筋肉に異常があるために目が疲れやすくなるものをいいます。例えば、俗にいう『寄り目』の出来ない方は近くのものを見る際に非常に目が疲れやすい。
あるいは斜視(まっすぐに見ているつもりでも眼球がまっすぐに固定していない状態)の方も見る距離や方向によりかなり目の疲れを訴えられます。こうなりますと眼科の専門医の判断が必要となります。特に斜視は幼少の頃から問題となっている方も多くおられるようです。

3)不均等性眼精疲労 (左右の視力の違いによって起こる疲れ目)
 右と左の視力が極端に違うと(特に両方の目を使っている時に)疲れ目が起きます。
これも筋肉の作用によるものですね。まず視力を正確に測定してメガネやコンタクトレンズで矯正しなければなりません。解決の容易な疲れ目ですね。
 
4)症候性眼精疲労 (目や目以外の病気によって起こる疲れ目)
 もともと目を使うことに関して問題のない方が、目あるいは他の部分の病気によって目の疲労を起こしているものをいいます。例えば眼科の病気でいえば、結膜炎、角膜炎、緑内障の初期など。その他の病気では、副鼻腔炎(ちくのう症)、更年期障害など。この場合の疲れ目は原因となっている病気を治すことが先決です。特に失明の原因にもなる緑内障には気を付けたいものです。

5)神経性眼精疲労 (精神的なものによって起こる疲れ目)
 このカテゴリーに属する疲れ目は稀とはいえ最近少しずつ増えているような印象を受けます。要は精神的緊張により目が疲れたような感じになっている状態です。神経衰弱あるいはヒステリーの方に時に見られますね。カウンセリングや軽い安定剤を用います。近年は日本全国ストレス社会ですので(小学生までがストレス性胃かいようを起こす時代です!)今後注目されていくタイプの疲れ目となることでしょう。あなたにも思い当たりますでしょうか? でもほとんどの方が1)に属する疲れ目なんですけど。

 ともあれ疲れ目に関しては一つの原因により起こった、というより複数の原因が関与していることが多くあります。ですからまず第一にあなた自身が疲れ目に対する正しい知識を持ち、そして思い当たるフシを改善しなければならないと考えます。ただし疲れ目を引き起こす原因の中には緑内障というやっかいな病気が隠れていることもありますので、今までになかった目の疲れが起こった時には一度は眼科に相談にいかれた方がよいでしょう。

 えっ、この文章を読んでいて目が疲れたですって? ああ何ということだ!
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