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神経内科通信

2009年10月号 「ストレスとメニエール氏病」

  メニエール氏病という病名を一度は耳にされたことがおありでしょう。本来は耳鼻いんこう科が専門的に治療を行う病気ですが、時に症状のひどさゆえに内科を受診される患者さんがおられます。めまいと耳鳴りの発作に悩まされる大変やっかいな病気です。
 
  耳の働きには音を聞くことと頭の位置感覚をつかさどることの2つがありますが、これらの機能をになう「内耳」というところに水腫れ(専門的には内リンパ水腫(すいしゅ)と呼びます)が起こることによりメニエール氏病は発病します。発病は中年以降に多く、特に男女差はありません。ちなみにめまいの性質は、ぐるぐると回転するタイプで、耳鳴りは8割以上の例で左右どちらか一方の側に出現することがわかっています。なお参考までに申しますと、メニエール氏病を診断する際には、念のため聴神経腫ようと突発性難聴という病気にも気をつけなければいけません。すなわち、めまいと耳鳴りがあるということだけでメニエール氏病だと安易に診断はしてはいけないということです。
 
  さて、最近は「ストレス社会」といわれます。ストレスが原因になって起こる病気をざっと挙げてみましょう。不眠症、胃かいよう、大腸過敏症候群、不安神経症、自律神経失調症、うつ病といったところが代表でしょうか。実はこれらの中にメニエール氏病も含まれるようなのです。東邦大学医療センター佐倉病院耳鼻いんこう科教授の山本先生によりますと、メニエール氏病で通院されている患者さんの八~九割が、会社なり家庭なりで大きなストレスをかかえていたとのデータが得られたそうです。そして、めまいや耳鳴りの治療に加えて、ストレスを和らげる薬やアドバイスを必要とする患者さんを数多く経験したとのことでした。この病気は本来遺伝するものではありませんが、同じ環境で暮らす親子がほぼ同じ時期にメニエール氏病を発症しやすい体質になっていたケースもあったそうです。これは大変興味深いことだと思います。
 
  めまいと耳鳴りが発作的に起こるだけでも、患者さんにとっては大きなストレスになりますよね。ですから、日常的なストレスによってメニエール氏病が起こる、そしてその症状がまた大きなストレスになるという悪循環におちいっていくことになります。冒頭に当疾患の発病年齢は中年以降、すなわち40歳代、50歳代の社会的にも家庭的にも責任がある立場の、働き盛りの方々が中心だと書きました。患者さんを取り巻く方々に対し、メニエール氏病についての正しい知識を学んでいただくことも、私に課せられた使命の一つなのかなと最近思うようになりました。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
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