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神経内科通信

2010年02月号 「注意したほうがよい「もの忘れ」」

  最近はテレビや新聞でアルツハイマー病の特集が組まれることが多く、高齢社会現象と相まって、もの忘れに対する世間的な関心は高いですね。実際に自分は認知症ではないか、と心配されて外来を受診する方は確実に増えています。
 
  さて、医者はカルテの中では「もの忘れ」という言葉を使いません。記憶障害という用語を使うわけですが、患者さんやご家族に対し、くわしい問診を通して注意が必要な記憶障害かどうかを判別していきます。
 
  記憶にはいくつか種類があります。毎日の生活の中で起こった出来事の記憶、 例えば、朝ごはんに何を食べたとか、きのう誰に会ったとか、電話で何を話したとか。これらをエピソード記憶といいます。また、車を運転する、泳ぐといった体で覚える記憶があり、これは手続き記憶。漢字や外国語などの読み書きは意味記憶と呼ばれます。手続き記憶や意味記憶は比較的保たれやすい記憶と言われており、日常生活で問題になるのは一番目にお話したエピソード記憶の障害といえます。実際にアルツハイマー病の初期に異状をきたすのがこのエピソード記憶なのです。(ただし、昔の記憶はよく保たれているのが普通です。)そうなると、心配のない記憶障害(病的なものではないので、単純に生理的な「もの忘れ」ともいえるでしょう。)と病的な(注意すべき)記憶障害を分けて考える必要がありますね。それでは心配のないもの忘れとはどのようなものでしょうか。
 
  簡単に説明しましょう。一般に毎日の体験の中で、その中の一部だけを忘れてしまうものについては心配はいらないとされています。具体的には、朝ごはんを食べたことは覚えているけれど、その内容を忘れてしまう場合、午前中に買い物に出かけて知り合いに会ったけれど、その人の名前を忘れている場合などです。このようなことは誰にでも(私にも)よくあることで、ヒントを聞けば「あっ、そうだった!ど忘れしていた!」としっかり思い出せます。
 
  逆に病的な記憶障害の場合、それらの体験自体を忘れてしまいます。例えば、朝ごはんを食べているのにもかかわらず忘れてしまったり、ちゃんと買い物に出かけているのに、そのこと自体を忘れてしまうのです。また、生理的なもの忘れと違い、周りの人がヒントを出してもなかなか思い出せません。
 
  もの忘れは何もアルツハイマー病だけが唯一の原因ではありません。他にもさまざまな病気があります。病気だけでなく、精神的なストレス、薬の副作用やアルコールの影響で記憶力が低下するケースもあるのですね。もしご心配な点があれば、お気軽に外来でご相談ください。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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