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神経内科通信

2008年08月号 「もの忘れについて」

  どうも最近、忘れっぽくなってしまって困っています。くすりの処方は医者の大切な仕事のひとつですが、時にそのくすりの名前がなかなか思い出せないのです。「ではおくすりを出しますね。え~と、あれあれ。あのくすり。何だったっけ。いつも出しているのにな・・・」私が若い頃にはなかったことです。
 
  そもそも「記憶」には3つの段階があるとされています。まず、その瞬間に「覚える」ということ。例えば、親戚から電話、ご近所の方に不幸、明日会う約束、テレビのニュースなど。見聞きしたことを頭の中に刻む作業です。次に覚えたことをしっかり「保つ」こと。わかりやすく言えば、覚えたことを頭の中にある「記憶の引き出し」に整理し、なくさずにキチンとしまっておくことです。これが上手にできないと、せっかく覚えたことが無駄になってしまいますね。最後の段階です。必要なときに「記憶の引き出し」にしまったものを間違いなく取り出すこと。午前中に親戚からきた電話の内容を家族に伝える、ご近所の方の不幸を町内会長さんに連絡する、明日人に会う約束をあとからメモ帳に記す、テレビのニュースの内容を夕食を食べながら話す、などなど。結局ですね、「もの忘れ」とはこれら3つの段階のいずれかがうまくいかないのです。ですから、先ほどくすりの名前が思いつかなかった私の場合では、3つめの段階、すなわち、頭の中にある記憶の引き出しにしまっておいたくすりの名前を取り出すことに失敗しているのです。「先生、あのくすりは○○ですよ」と看護師さんに言われ、「ああ、そうだった!」恥ずかしいやら悲しいやら・・・。
 
  もの忘れには心配のないものと、ちょっとだけ心配したほうがよいものがあります。私の場合は良性のもの忘れで、心配いらないタイプです。思い出したときに「ああ、そうだ」と感じる場合は大丈夫。ちょっと心配したほうがよいケースは、せっかく覚えて頭の中にある記憶の引き出しにしまっておいたはずのものが、いつの間にか消えてしまうパターンです。この場合、最近の出来事や体験したことを忘れてしまいます。ただし、自分にとってあまり大切ではないことは忘れることが当たり前ですので正常です。また、もの忘れを自覚している間はそれほど心配するには及びません。
 
  高齢化社会にともない認知症の方の総数は増えているようです。平成2年のデータによりますと、その頻度は65歳以降で百人に二~三人、70歳以降で百人に三~四人、75歳以降で百人に七人、80歳を超えますと六~七人に一人と次第に増えていきます。記憶の検査は当院でも実施が可能です。もしご心配ならお気軽にご相談ください。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
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