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神経内科通信

2021年3月号 高齢者てんかん

先日のことです。私の父親がかかりつけの医者に気になる症状を相談したところ、「それは「年のせい」ですね、と説明されて返す言葉がなかったよ」と苦笑いしていました。たしかに、認知症、白内障、骨粗しょう症など、加齢の要素の強い病気はたくさんありますので、年のせいは間違いではありません。

 しかし、数ある病気の中には単に「年のせい」では済まされないものもありまして、高齢者てんかんはまさにその代表格ともいえる病気です。

 てんかん、と耳にしますとほとんどの方が、発作性に意識をなくして身体を硬直させるけいれんを思い浮かべると思います。実はけいれんはてんかんの一つの症状に過ぎず、けいれんを伴わないてんかん発作も数多く見受けます。

 高齢者の方々に出現するてんかんですが、二人に一人はけいれんを伴わない発作であるといわれています。典型的には2つの症状が有名で、ひとつには突然、呼びかけに反応しなくなる、そしてその間の出来事をまったく覚えていない、といった「意識が飛ぶ」現象。そしてもう一つ。これもまた突然、意識がもうろうとした状況となり、同じ動作を繰り返します。たとえばその場にあるものを意味もなく触り続ける、口をもごもご、くちゃくちゃと動かし続ける、といった状態が観察されます。(これは「自動症」と呼ばれています。)典型的にはこのような症状が三十秒から三分ほど続くとされています。

 このタイプのてんかん発作は時として認知症と間違われることがあります。なぜなら、発作によって生活のエピソード記憶が抜け落ちてしまうからです。明らかにもの忘れがあるのに、病院での認知症検査では異常がない、このようなケースではてんかん発作の可能性を考えて検査を考えなくてはいけません。

 もう一つ。高齢者てんかんは自動車の運転で大事故を誘発する危険性を高めます。あるデータによりますと、六十五歳以上で約1%の方にてんかんが発見されているそうです。ざっと百人に一人という計算になります。

 早期発見のためには周りにいる方が症状に気づくことが大切です。先ほどの説明の反復になりますが、① ぼんやりと一点を見つめるように、動作が停止する。② 無意識に片手をもぞもぞと動かし、もう片方の手は固まっている。③ 無意識に口をもごもごさせる、舌・くちびるをくちゃくちゃと鳴らす。このような症状が発作的に観察されたのなら、ぜひ外来で相談していただければと思います。いったん高齢者てんかんと診断がつけば、薬によって治療が可能であり、まったく怖い病気ではありません。むしろ、気がつかないことによる

不利益の方が大きな病気ではないかと思います。( 文・神経内科 則行 英樹 )

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