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神経内科通信

2011年04月号 「糖尿病の診断基準」

  医者は病気の診断をおこなう際には必ず、その病気と判断した根拠を求めなければなりません。今回のテーマである糖尿病も、キチンとした診断の根拠が必要な病気の一つであり、その診断基準の最新版が平成22年に日本糖尿病学会から発表されましたのでご報告いたしましょう。
 
  厚生労働省が平成19年に実施した実態調査で、その時点での日本人の糖尿病人口は890万人と発表され、その数は今後ますます増えていくであろうと推測されています。失明や腎臓障害、神経障害、脳こうそくや心筋こうそくに苦しむ方々を減らすため、特にこの数年は早期に糖尿病を的確に診断して治療に結びつけることの重要性・必要性が叫ばれてきました。新しい糖尿病診断基準作成の背景にはこのような事情があったのです。
 
  糖尿病とは読んで字のごとく、尿に糖が出る病気となるわけですが、尿検査で調べる「尿糖」で診断するわけではありません。糖尿病の診断には採血が必要です。必須項目は血糖とヘモグロビンエーワンシーの2つです。
 
  血糖については以前から空腹時血糖値、食後2時間血糖値(正確には、ブドウ糖負荷試験といって、血糖をわざと高くする検査での数値を用います)、随時血糖(食事を摂る時間によらない血糖値)の3つが調べられます。そして空腹時血糖については126以上、食後2時間血糖値は200以上、随時血糖値は200以上が糖尿病型とされています。
 
  もう一つ、ヘモグロビンエーワンシーについてですが、これは過去1ヵ月から2ヶ月程度の期間における血糖のコントロールを示す指標です。以前は6.5%以上が糖尿病診断の際の基準値でしたが、今回の診断基準の改正で6.1%にまで引き下げられました。ですから、6.0%以下でコントロール良好、逆に言えば、6.1%以上で糖尿病型と判断されるわけです。(なお、貧血の方はこの数値が低くなりますので注意が必要です。)
 
  これら血糖値とヘモグロビンエーワンシー値の双方を組み合わせて、経過観察(1ヵ月後の再検査)にするか糖尿病治療を開始するかを判断します。
 
  今回の診断基準改正の目的は、病院を初めて受診した方でも、言いかえれば1回の採血検査だけでも糖尿病の診断がきちんと下され、早期治療を実施する患者さんの数を増やして、悲惨な合併症の発症を抑えること(ひいては医療費抑制といった医療経済効果をねらうこと)にあります。多くの方々が早期に適切な糖尿病治療を受けることができ、治療の遅れにともなう合併症に苦しむことがないように私は願っています。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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