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神経内科通信

2013年12月号 「めまい雑感」

  歯が痛ければ歯科へ、骨を折れば整形外科へ、やけどをすれば皮膚科へ。このように、こんな症状なら何科を受診すべきかを容易に判断できる一方、一体これは何科に診てもらえばよいのだろう、と考え込んでしまうケースも時にはあるのではないでしょうか。例えば、めまいは受診すべき科に迷う代表的な症状の一つといえるでしょう。実際、過去にめまいで外来に来られた方に尋ねてみますと、初めて相談に訪れた診療科は、耳鼻いんこう科、眼科、脳神経外科、神経内科、内科、心療内科と実に多岐に亘っていました。
 
  めまいの原因となる病気は大きく分けて、(1)耳鼻咽喉科領域、(2)脳神経科領域、(3)その他の領域となります。(1)では「メニエール氏病」「良性発作性頭位変換性めまい」が代表的で、多くの場合、回転するめまいが特徴とされます。(2)では脳卒中が代表でしょう。この場合、めまいに付随して呂律や飲み込みが悪くなったり、半身の動きがおかしくなったりすることがあります。しかし、特に注意すべきめまいはそれ以外、すなわち(3)に属するめまいであると私は考えています。難治性のめまいの多くがそれに含まれているようにも思われます。
 
   実は貧血や脱水症、血圧の変動、薬の副作用、不整脈などからもめまいは起こり、当然ながらこれらは耳鼻いんこう科や脳神経外科での検査で異常は検出されません。診断を下すためには全身状態の把握、血圧・脈の測定、採血、薬の減量、頻繁な心電図検査など、さまざまな過程を踏むことになります。
 
  私の研究テーマの一つに「椎骨(ついこつ)脳底(のうてい)動脈循環不全」というものがあります。脳に血流を供給する血管では左右の頸(けい)動脈が有名ですが、他にも左右の椎骨動脈、それらが合流した脳底動脈という重要な血管があります。これらの動脈に何らかの問題があって、脳血流が部分的に低下してめまいを引き起こすのが、この椎骨脳底動脈循環不全なのです。医者の間でもあまり知られておらず、耳鼻いんこう科や脳神経外科、神経内科などにかかっても異常なしとされ、途方にくれた方が当院を受診し、この診断のもとに治療を行い、症状の改善が得られたケースを私は数多く経験しています。
 
  原因として重要なものが2つあり、血管の老化現象である動脈硬化による血流低下と頸椎(けいつい:首の骨)の並びの異状による血管の圧迫です。お若い方で原因不明のめまいを持たれている方には頸椎のレントゲンをチェックする必要があるでしょう。当外来では積極的に頸椎、頸部の動脈を調べています。 今年も一年、ありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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