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神経内科通信

2016年06月号 「地震酔い」

  先の熊本地震では熊本市内のみならず、大分県内でも大きな被害が生じました。被害に遭われた方々には心からお見舞いを申し上げますとともに、一日も早く普段の生活が取り戻せますことを祈念させていただきたいと思います。
 
  さて、今回のテーマは地震酔いです。今なお余震が続く被災地で、食中毒やエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)の発生がマスメディアによって取り上げられていますが、全く揺れがないのにもかかわらず身体が揺れていると感じる「地震酔い」の症状を訴える方が明らかに増えているそうなのです。そういえば、先の東日本大震災でも多くの被災者の方々が地震酔いを経験したとの調査結果を聞いたことがあります。私の外来においてもあの地震以降、もともとめまい持ちの方が症状の悪化を訴え受診されるケースが多くなっています。
 
  新聞によりますと、ある医療機関の調査で、地震酔いの症状に悩む多くの人は避難所でされていることがわかり、そのようなストレスのたまりやすい環境が症状の発生に影響しているのでは、という専門家の意見があります。
 
  被災地域である宇城市にある耳鼻咽喉科クリニックを4月19日以降に受診した患者さんのうち、48人が地震酔いの症状を訴えられ、その内訳は男性が8人で女性が40人だったそうです。このうち38人は4月14日の地震発生前からめまいの治療目的で通院されており、地震後にめまい症状の再発、吐き気を伴うなど症状の悪化がみられました。残りの10人は地震後に身体のふらつきを覚えた初診の患者さん。また、地震酔いがある48人の方のうち、36人が受診の時点で車中泊や避難所生活をなさっていたとのことでした。
 
日本めまい平衡医学会専門会員の松吉秀武先生は、「相次ぐ余震で平衡感覚をつかさどる三半規管に異常な負担が生じることに加え、さらにストレスがたまりやすい生活環境が症状悪化に影響しているのではないか」と分析なさっています。また先生は「めまいの患者さんはもともとストレスに弱いタイプの方が多く、精神不安が続くと症状が治りにくくなる。仮設住宅の建設など、少しでも不安を取り除ける環境づくりが急務だ」とコメントなさいました。
 
  車中泊や避難所などではじっとして過ごすことが多くなります。熊本大学医学部付属病院の耳鼻咽喉科・頭頸部(とうけいぶ)外科の三輪先生は「安静時間を少しでも減らして屋外で身体を動かし、視覚と身体の感覚を一致させていけば症状の軽減につながる」と話されています。日本に住む限りいつ地震に遭遇するかわかりません。地震の際の備えとして、身体に起こりうる変化も想定しておく必要があるのかもしれません。
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
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