神経内科通信
2025年4月号 「かぜ薬」を考える
コロナ感染症、インフルエンザ感染症の陰に隠れてしまって、外来でもあまり耳にしなくなってしまった「かぜ」。かつては冬になると、外来で「かぜ薬」の処方をひんぱんに行っていたものです。実は「かぜ(風邪)」は正式病名ではなく、カルテには「風邪症候群」あるいは「感冒」と記録します。主にウイルスの感染であり、鼻やのどに炎症が生じて鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳などの症状が出現します。基本的に特効薬はなく、自然経過にて数日ほどで治ります。
総合感冒薬。その名を聞きますと、かぜ症状に対する万能薬のような響きがありますね。その代表的なものは「PL(ピーエル)」でしょう。私が医師になりたての頃には、感冒=PLで対処していました。同薬は処方する側もされる側も納得のいく薬であった気がします。しかし、外来で経験を積んでまいりますとPLは良いお薬であることは認めつつも、決して万能薬ではないという実感を持っています。そもそも副作用を自覚する方が多いです。最多なのは「眠気」。実は私はPL服用で著しい眠気を生じます。(ぐっすり寝て症状を治す薬なのだと私は考えます。)よって車の運転や仕事の内容によっては不向きですね。実はこの薬、体内のアレルギー物質を抑える成分が配合されており(これで鼻水やくしゃみを改善)、これが脳の働きを低下させます。それでPLにはカフェインという脳を活性化する成分が同時に含まれるのです。わかりやすく言えば、眠気という副作用が出ることを想定した薬なのですね。他にも、肝ぞうの悪い方、鎮痛剤で誘発されるぜんそくの方、緑内障の方、前立腺肥大の方には使えないという制約もあります。同薬を使い慣れている方は別として、服用には注意が必要です。
鼻やのどの炎症に私はよくトラネキサム酸を処方します。もともとは出血を止める薬なのですが、血管に対する作用がそのまま炎症を抑える効果につながるとされています。服用された患者さんの話から一定の効果はあるものと考えていますが、長期にだらだらと服用しますと血栓(血液のかたまり)を生じる可能性もあるため、風邪症状に関して私は5日分の処方を基本にしています。
炎症で痛んだ粘膜を修復する薬にカルボシステインがあります。比較的安全で(小児を中心に)有効性が証明されているため、私は好んで処方しています。
漢方薬もお勧めできます。種類によっては炎症を抑え、免疫機能を高めることが数々の研究で証明されているためです。私は漢方の専門医ではありませんが、発症の早い時期に葛根(かっこん)湯、発熱には麻黄(まおう)湯、コロナ感染では小柴胡(しょうさいこ)湯を用いることがあります。いずれにせよ、症状に応じて安全に服用できる薬の選択が大切ですね。
( 文・神経内科 則行 英樹 )