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神経内科通信

2016年11月号 「医者に騙(だま)されるな」

 
 今回は何ともショッキングなタイトルですが、これは某週刊誌が特集した記事、「飲み続けてはいけない薬」の見出しです。実はこの記事の反響は想像以上に大きくて、この記事が世に出てからしばらくの間、私たち医者は患者さんへの対応・説明に追われることになりました。
 週刊誌の記事によれば、飲み続けると身体に害となる薬として、主に生活習慣病の治療薬の名前が数多く挙げられておりました。生活習慣病、すなわち、高血圧、糖尿病、脂質(コレステロール)異常症に対する治療薬のことですね。実際にこれらの薬はどこの病院においてもひんぱんに処方されているはずです。
 私たち医者は新たに薬を処方する際、その薬を用いることによる良い面、悪い面を常に頭の中に思い描いています。薬のよい効果ばかりを念頭に置いてしまえば、患者さんを副作用で苦しめることになりかねません。高齢の方、肝ぞう・腎ぞうの働きの弱っている方、体格(体重)、併用することになる薬の種類、そしてもちろん、引き起こされる可能性のある副作用などを考慮しつつ、医者は薬を処方しています。ですから、週刊誌に書かれているような重大な副作用は医者が熟知しているものばかりであり、特に目新しいものではないのです。
 私の場合、生活習慣病の治療を行っている患者さんに対しては、次の2つの点を説明しています。1つは薬の力だけで病気を良くしようとは絶対に思わないこと、つまり、薬はあくまで補助的な役割であり、大切なのは自分が自分の身体の弱点を理解した上で「薬の効きやすい身体を自分の努力でつくること」。もう一つには、将来、少しでも薬から卒業できるように、お互いに力をあわせましょう、ということです。これはとても大事なことではないでしょうか。
 最近、極端な考えに走る医者が多いようです。そのような医者に共通する特徴として、自分の唱える説以外は「悪」と決めつけ、自分の主張を正当化するために他者を攻撃するきらいがあるようですが、これは私の誤解でしょうか。
 ガンは治療するな、健診は受けるな、薬は飲むな、医者の説明は信用するな、などの主張は根拠があればまあ結構なことだとは思いますが、だからといって他の医者の考え方をすべて否定することはかえって危険なように思います。それぞれの考え方の良い面は認め合い、相反する点についは共同で研究を進めていく、そのような科学的態度で臨む必要があるように私は感じています。
 
 交通事故が起きるのは車のせいだ、だからすべての車をこの世からなくしてしまえ、副作用が起こるのは薬のせいだ、だから薬なんか飲むもんじゃない、このような考え方には違和感を覚えざるを得ません。
 ( 文・神経内科 則行 英樹)
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