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神経内科通信

2017年05月号 「歯と認知症」

 歯を大切にしましょう。これは私たちが子供のころから言われ続けたことではないでしょうか。歯にはいろいろな働きがあります。たとえば食べ物をかむ、食事(歯ざわり)を楽しむ、言葉をきれいに発する、歯を食いしばることで力が出せる、などです。いろいろと調べてみますと、たくさんある歯が数本くらいなくなっても大丈夫、とはいかないようです。歯が少なくなることで老け顔になりやすいという美容上の問題はともかくとして、食べ物をうまくかみ砕けないことで胃腸の負担を高めて栄養の吸収を悪くしたり、正しいかみ合わせができなくなることで運動能力が低下したりすることが知られています。特に興味深いのは、歯がないほど認知症になりやすいという研究報告です。
 
 これまでも、食べ物を「噛む」ことで脳に刺激が伝わり認知症が予防できる、「美味しく食べる」ことができなくなると毎日の喜びや楽しみが少なくなって気力が落ちて認知機能が低下するなど、数々の俗説はありましたが、九州大学の竹内先生は最近、具体的なデータとして歯を失うことと認知症のなりやすさについての論文を発表されました。以下、その概要です。
 
 九州のある地域に住む、明らかに認知症ではない六〇歳以上の住人一五〇〇余人を対象に、平成十九年から5年間、追跡調査がなされました。調査の対象となる人々を残っている歯の数で4つにグループ分けして(残っている歯の数が20本以上、10~19本、1~9本、0本の4グループ)、その後にアルツハイマー型認知症、あるいは脳卒中に伴う認知症のなりやすさを検証しています。
 
 その調査結果です。5年にわたる調査期間中に各種認知症を発症された方は180人(11.5%)。その中でアルツハイマー型認知症を発症された方は127人(8.1%)、脳卒中に伴う認知症を発症された方は42人(2.7%)でした。
 
 さて気になる分析結果ですが、歯が20本以上あるグループとそれ以外のグループを比較したところ、各種認知症のなりやすさは(20本以上歯が残っているグループと比べて)10~19本残っているグループで1.62倍、1~9本残っているグループで1.81倍、歯がまったく残っていないグループで1.63倍だったそうです。竹内先生によりますと、アルツハイマー型認知症については歯を失うことにより発症の危険性が増すと考えられる、と結論を述べられています。なお、脳卒中に伴う認知症については明らかな関連は認められなかったそうです。
 
 最近のデータによりますと、虫歯を持つ子供の総数は年々減ってきているそうです。これは将来、認知症発症を予防する観点からも歓迎すべきことといえるのかもしれません。やはり歯は大事ですね。 
 ( 文・神経内科 則行 英樹)
 
 
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