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神経内科通信

2017年06月号 「口腔アレルギー症候群」

 「アレルギー」は病院内でよく耳にする言葉のひとつですが、あなたはその意味をご存知でしょうか。アレルギーとは「自分じゃないものを認識して、それを排除しようとする身体の働きや身体の反応」のことをいいます。代表的なものには、じんましんや花粉症(けつまく炎や鼻炎)などがあります。
平成二十三年に厚生科学審議会は、日本の総人口の約二人に一人が何らかのアレルギー性疾患にかかっていて、今もなお増加している、と発表しています。これは驚くべき数字です。アレルギー性疾患は今や立派な国民病なのですね。
 
 本日のテーマは口腔アレルギー症候群です。これは1987年に提唱されたもので、食物アレルギーが原因で起こります。症状の特徴ですが、身体に合わない食べ物を口にした直後から一時間以内(多くは十五分以内)にくちびるや口の中、のどの奥がムズムズしたり、ジンジンしたりします。人によっては目のかゆみや充血、鼻水・鼻づまり、顔のほてり、皮ふのかゆみ、吐き気や腹痛、下痢などを起こしますが、ひどい場合には血圧が下がったり、呼吸困難に陥ったり、意識状態が悪化することもあります。最近の研究で口腔アレルギー症候群は高い頻度で花粉症を合併することがわかりました。逆にいえば、花粉症体質の方はこの口腔アレルギー症候群に注意する必要があるということになります。
 
 興味深いことに「ある種の花粉」と「野菜・くだもの」は身体が同じものと認識しやすいらしく、特にカバノキ科の花粉(シラカンバ、ハンノキなど)とバラ科のくだもの(例えば、りんご、さくらんぼ、ももなど)は身体に同じものと認識されてしまうようです。ある研究データによりますと、カバノキ科の花粉に対してアレルギーがある方の約8割にバラ科のくだものアレルギーが合併していた、と書かれていました。りんご、さくらんぼ、もも以外にも、西洋なし、セロリ、にんじん、いちご、ピーナツなども原因になるようです。
口腔アレルギー症候群を予防するためには、原因となる食物を避けること、可能であれば食物を加熱処理すること、の2点が大事です。また、野菜やくだものが新鮮であればあるほど症状をひどくする可能性があるともいわれます。
 
 藤田保健衛生大学の矢上教授は次のように述べています。「現在、多くの植物は化学物質、大気汚染、品質改良など、たくさんのストレスにさらされている。植物はそれらのストレスから自分の身を守るために生体防御たんぱくを作るが、おそらくそのたんぱくが私たちの身体にアレルギーを生じさせているのではないか。」実は人間ではなく、植物こそが一番の被害者かも知れないという不思議な気持ちになりました。いろいろ考えさせられます。
(文・神経内科 則行 英樹)
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