本文へ移動

神経内科通信

2009年09月号 「新型インフルエンザ騒動を考える」

  今年の春から新聞やテレビで新型インフルエンザのニュースを見かけない日はないような気がします。私たちはこれまでの国の対応を反省し、来るべき再流行に備えなくてはいけません。
 
  憶えていらっしゃいますか? 宇宙服のような防護服を着て飛行機の機内で発熱の旅行客を調べる検査員を。そして軽症であるにもかかわらず隔離入院させられてしまった元気な高校生のことを。つまり、この度の一連の騒動で国がとった行動は、インフルエンザウイルスの水際封じ込め作戦(いわゆる検疫)と発症患者の隔離入院、学校閉鎖、集会の自粛などに代表される国内封じ込め作戦の二つです。これらの作戦が功を奏したかどうか、すなわち新型インフルエンザの国内流入を完全に防げたか、そして感染の拡がりを防げたについては、その双方で見事に失敗しています。おまけに無意味な封じ込めによる経済的損失は1000億円とも言われています。これは相当な額です。
 
  このように国がとった作戦は検疫法(戦前の隔離思想)にもとづいています。この考え方が時代遅れであることは、同様の法律であった「らい予防法」「結核予防法」がすでに廃止されていることからもわかります。日本では間違いなくこの秋頃から新型インフルエンザは再流行するでしょう。その時に国が同じ手法で対処するならば全く無意味な結果に終わり、国際的にも失笑を買うことは間違いありません。事実、世界保健機構(WHO)は早い時期から「検疫は推奨しない(ほとんど意味をなさない)」「学校閉鎖、集会の自粛、国境閉鎖などは経済活動に悪影響を及ぼすので行ってはならない」と警告していました。
 
  厚生労働省検疫官である木村先生は次のように述べています。『政府が行った活動のより所である「新型インフルエンザ対策行動計画」は弱毒インフルエンザ患者に対する社会的偏見、軽症でも隔離入院させられる非人道的仕打ち、地方自治体・医療現場の崩壊と経済的大損失を生み出した。この計画の作成にかかわった健康局長の責任を追及し、全面的に計画を見直すべきだ』と。
 
  では私たちはどのように対処していけばよいのでしょうか。木村先生によれば、(1)インフルエンザという病気の封じ込めはいかなる努力をもってしても不可能であることを理解する。(2)うがい・手洗い・体力増進・予防接種という当たり前のことを日頃から心がけること。(3)せきをする時には必ず手やハンカチなどで口をふさぐこと。マスクの着用が望ましい。(4)熱やせきがあれば自発的に学校や仕事を休む。(5)新型インフルエンザと診断されても重症でなければ自宅で静養して治す。とのことでした。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
TOPへ戻る