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神経内科通信

2010年04月号 「過敏性腸症候群」

  私の高校時代、なぜか試験を受けるたびにトイレに駆け込む友人がいました。「緊張すると必ずお腹がぐるぐると鳴り出して痛くなり、トイレに行くと楽になるんだ」と私に話してくれたことをハッキリ覚えています。高校生だった私は彼を「変わった奴だな」くらいにしか思いませんでしたが、今思えば、この状態がまさしく「過敏性腸症候群」と呼ばれるものなのです。
 
  検査をしても明らかな原因が見つからないのに、排便によって軽くなるお腹の不快感や腹痛が反復する状態を「過敏性腸症候群」と呼びます。この20年ほどで研究がずいぶんと進んでいますが、最近では明確な診断基準がありまして、過去3ヵ月間、月3日以上にわたってお腹の不快感や腹痛がくり返して起こり、次の項目の二つ以上があるものをいいます。
 
  1. 排便によって症状が軽くなる。
  2. いったん症状が起こると、排便の回数がひんぱんになる。
  3. いったん症状が起こると、便の形に変化が起こる。いつもと違って硬い便であったり、下痢であったり。
 
  過敏性腸症候群は比較的若い方に多いとされますが、まれならず高齢者にもみられます。また、男性は下痢のパターン、女性は便秘のパターンが多いようです。この過敏性腸症候群ですが、大腸が刺激に対して敏感になっていることが原因となります。つまり、通常では何とも感じられない程度の便のかたまりであっても、過敏性腸症候群の患者さんにとっては強い刺激として感じられ、お腹の不快感や痛みとなるようなのです。この病気はストレスに弱い、神経質な方によく見られることも知られており、体内のホルモンに対する過剰反応も要因の一つに考えられています。
 
  特に問題なのは、緊張や不安によりお腹の症状が出現しますので、日常生活のあらゆる場面で支障を来たします。すなわち、外出するのがこわい、バスや電車などの公共交通機関に乗ることができない、トイレのない空間にいるのがつらい、などです。患者さんはとても苦しまれるわけです。
 
  治療についてですが、下痢に対しては乳酸菌製剤、便秘に対しては下剤、お腹の痛みに対しては腸の動きを抑えるお薬を処方します。時には精神安定剤やうつに効果のある薬を選択しなければいけないような方もいらっしゃいます。場合によっては、食事指導や生活習慣改善の指導も行います。たかが腹痛、されど腹痛ですね。最近では新薬の開発もあり、一時期よりもずいぶんと治療をしやすくなりました。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
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