本文へ移動

神経内科通信

2018年04月号 「スマホ認知症」

 
 思えば私たちの生活は一昔前に比べるとずいぶんと便利になりました。昭和四十五年(1970年)当時の自家用車所有率は4世帯に1台だったそうです。今では一家に2台も珍しくはありません。私が小学生の頃は夜に買い物なんて想像もつきませんでしたが、今ではコンビニエンスストアで当たり前に買い物ができます。携帯電話の登場は画期的でしたが、スマートフォン(スマホ)の登場も衝撃的に感じました。私たちの文明はこの五十年でみても、人類がかつて経験したことがないほど進歩しましたが、便利なものには落とし穴があります。

ある新聞記事に「スマホ認知症」という言葉を見つけました。これはスマートフォンが招く認知症らしいのですが、認知症が専門の私も知りませんでした。記事によりますと、若者を中心とした働き盛りの世代の方々に「スマホ認知症」はみられるそうなのです。以下にその記事の内容を紹介させていただきます。
 岐阜県にある「おくむらメモリークリニック」の奥村歩先生(奥村先生は脳神経外科医でいらっしゃいます。)によりますと、最近、もの忘れ外来へ相談に訪れる患者さんの若年化がどんどん進んでいるとのことでした。奥村先生は認知症を専門になさっておられますが、統計をとりますと、来院する患者さんの約3割が四十代~五十代、約一割が二〇代~三〇代だそうで、一般的には認知症になんてなり得ないような世代の相談がここ数年は増えているらしいのです。
 奥村先生は「脳が健康な状態を保つために必要なことは、情報を脳に入れることと、その情報を深く考えることをバランス良く行うことだ」と説明なさっています。確かにその通りで、脳は考える習慣を持つことでその機能を維持する仕組みになっています。ところが、スマートフォンの出現により、日常的に脳へ「情報を入れっぱなし」が当たり前の状態になっていて、気がついた時には脳は情報で過労状態が引き起こされているらしいのです。それで集中力が極度に低下したり(その結果、もの忘れを来たします。)、感情の抑制がきかなくなったり、性格が変化したり、といった認知症やうつ病のときと同じような症状がみられるようになるとのことです。これは恐ろしいですね
 前述の奥村先生はさらに「この状態が長く続くと、本当のうつ病になってしまう危険があるので私は警鐘を鳴らしているのです。」と続けておられます。
 脳の疲労をそのまま放置すれば老後の認知症の可能性が高まるということなのですが、スマホ認知症は生活習慣を変えれば改善するそうです。原則は脳への情報入力をいったん止め、ぼんやりと考える時間(すなわち脳のリラックス状態)を作ることが大事なのだ、とありました。( 文・神経内科 則行 英樹 )

TOPへ戻る