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神経内科通信

2019年05月号 「転倒予防のために」

 人間に限らず、動物は動作をなすこと、すなわち、からだを動かすことによって生活を営んでいます。私たちは日常的に「歩く」「立つ」「座る」「起きる」といった動作をこなしています。ではこの動作を支える身体の部分は、といえば筋肉、骨、軟骨、関節などが挙げられますが、これら身体の動作(動き)をつかさどる部分のことを医学的には「運動器」と呼んでいます。最近では加齢によって運動器の働きが低下してしまう状態を「運動器不安定症」あるいは「ロコモティブ症候群」と称しておりまして、おそらくテレビや新聞でご存知かもしれません。
平成二十八年に国から発表された統計によりますと、運動器に問題が生じてしまった結果、日常生活に何らかの支援を要するようになった方々(要支援認定者と呼ばれます)は全体の32.4%、すなわち全認定者の約三人に一人がこの運動器の病気だったことがわかりました。運動器を守ることは、直接日々の生活を守ることにつながるといっても過言ではないような気がします。
それでは、運動器が丈夫でありさえすれば転んでケガをすることはないのか、支援を要することもなくなるのか、といえばそれは違います。特に年配の方々に気をつけていただきたいポイントがいくつかあります。
①  睡眠剤・安定剤はふらつきを引き起こすので注意。
最近では世代を問わず、不眠症の治療をなさる方が増えてきているように思います。もちろん、くすりを用いてしっかりと眠ることができればそれに越したことはないのですが、夜中、トイレに起きたときにくすりの影響でふらついてしまい、転ぶ方が時々いらっしゃいます。日頃使用しているくすりの作用(副作用)についてはよく理解したうえで役立てていただければと思います。
②  低血圧・不整脈もふらつきを引き起こすことがあります。
一般的にはよく「脳貧血」と言われますが、脳血流が一時的に低下してもふらつきが生じます。特に朝の起きがけやお風呂あがり、トイレの後に立ち上がった際、低血圧が起こってふらつくこともあります。(ひどい方は一時的に意識をなくします。)血圧を下げるくすりを使っている方、脈が遅くなる不整脈をお持ちの方は立ちくらみに注意を要します。
③  生活環境の整備にも注意が必要です。
自宅の中の生活動線(部屋内の歩く場所)が物で散らかっている場合、逆に廊下がつるつるになるほどきれいに磨かれている場所(特にワックスがけの後、水でぬれている場所)も不注意から転びやすくなります。自宅内では居間で転倒するケースが全体の約半数を占めているそうです。 ( 文・神経内科 則行 英樹 )
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