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神経内科通信

2021年2月号 「正常性バイアス」をご存知ですか?

私たちは生きていく上でさまざまな環境の変化を経験します。それは体調の変化であり、気候の変化であり、生活・社会環境の変化です。そしてその変化の中には、気にならないささいなものから、気を病んでしまう重大なものまでさまざまあるわけですが、それら一つひとつをいちいち気にしていたら毎日の生活が営めないどころかひどく精神を病んでしまいます。実は私たちの脳にはそれらの変化(ストレスと言いかえて良いかもしれません)から脳自身を守るメカニズムが備わっておりまして、その作用によって日々を健全に過ごすことができるのです。自分自身を守る自己防御システムの一つといえるでしょう。

 でもそれはあくまで脳の自己防御システムが「良い面」に働いた場合の話です。もし、そのシステムが「悪い面」に働くとどうなるでしょうか。私たちは日常生活で自分にとって都合の悪い状況を過小評価(大したことないね、まあこれは大丈夫だな、無視しておこう、等)することがありますね。このような心の働きを正常性バイアス(バイアスは「思い込み・先入観」といった意味)といいます。そしてそれはより重大な局面に直面した時ほど強く働くことになります。阪神淡路大震災、東北大震災など甚大な自然災害の時にも正常性バイアスが強く働いて現状を軽く判断することになり、結果として逃げ遅れや二次災害が発生する事態を引き起こします。コロナ感染症が大流行している今、私たちはこの正常性バイアスを正しく認識しておく必要があるように感じます。

 もちろんコロナを極端に恐れる必要はありませんが、去年の今ごろと比べてどうでしょう、あなたは毎日見聞きするニュースに少しばかりコロナに慣れてきてはいませんか?感染予防に油断が生じていませんか?何となく自分は大丈夫な気がしていませんか?だれかが何とかしてくれるような気持ちになっていませんか?正常性バイアスのかかり過ぎには気をつけておきたいものですね。

 正常性バイアスと共に気をつけておきたいのが「同調バイアス」です。これは他の人と同じ行動をとってさえいれば、自分は安全だと感じて安心する心の仕組みをいいまして、特に日本人に強い傾向があるそうです。あの人がああやって大丈夫なら自分も大丈夫なはず。この人がそうするのなら自分もそうしよう。そのような思い込みが無意識に生じるのですね。バイアスに惑わされないようにするには何が大切か。それは日頃の心構えです。災害に備えて避難場所を確認、必要物品を準備、災害を想定し訓練をする。自分に合った感染対策を講じて実践、感染を想定して相談の段取りをつけておく。自己中心になり過ぎない。そして常に冷静に判断・行動です。   ( 文・神経内科 則行 英樹 )

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