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神経内科通信

2011年06月号 「認知症になりにくい生活とは」

  最近、ある雑誌に鳥取大学医学部教授である浦上先生の書かれた興味深い記事を見つけましたのでここに紹介しましょう。その記事の冒頭には認知症を発症しやすい人の生活習慣が述べられています。先生によりますと、脳は怠けすぎても、酷使しすぎても認知症になりやすいのではないか、とのことでした。
 
  脳を怠けさせる生活とは身体を動かさず、変化や刺激に乏しい環境をいうそうです。具体的には、家に閉じこもりがち、家族や知人との会話が少ない、日頃から曜日や時間を意識しない、取り立ててすることがない毎日をいいます。
 
  逆に脳を酷使する条件については文中に詳しく述べられてはいませんが、私が思うに、イライラしながらゆとりのない仕事をしたり、長時間にわたる達成感のない頭脳労働を無理に強いられたりする場合をいうのでしょう。この場合、神経細胞が過労死を引き起こしてしまって認知症を誘発しやすくするのではないかという説を先生は唱えていらっしゃいます。
 
  私が特に興味を持ったのは、「控えの脳細胞を確保するべきだ」という浦上教授の主張です。「控えの脳細胞」とは、日頃から脳を創造的に働かせる習慣を持つことにより、ふだんは全く使っていない神経細胞が活性化されたものをいい、この活性化された脳細胞が、脳の一部に障害が起こったときに機能の補充をしてくれて、認知症の予防が可能となるらしいのです。なるほど、控えの脳細胞とは脳細胞のピンチヒッター的役割をしてくれるわけですね。
 
  記事を読みますと、この「控えの脳細胞」を増やすにはどうしたらいいかについても言及されています。先生によると二つの方法があり、一つには強制されず、楽しみ(やりがい)のある作業を習慣的に行うこと、そしてその作業には多少の創造性や達成感が伴っていること。具体的には、短歌・俳句・川柳・囲碁・将棋・パズル・料理・園芸・絵画・楽器演奏・旅行など、創造的で楽しみながらできるものが望ましいそうです。もう一つには、できるだけ多くの人と会話をすることだそうです。相手のことがよくわからないくらいのほうが(すなわち、あまり気心の知れない相手との会話の方が)自分でよく考えるきっかけになるし、好奇心も生まれやすい。一人暮らしの方であれば、電話で家族や知人を相手に新しい話題について積極的に会話するのも一つの方法だそうです。
 
  また、外出して太陽の光を浴びると、メラトニンというホルモンが多く分泌されて、身体の昼夜のリズムが整いやすくなって、不眠の予防にもなるということでした。さて、以上を実行に移すとなるとなかなか大変そうですが、脳の健康によい生活のヒントにはなりそうですね。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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