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神経内科通信

2011年08月号 「肥満と食事について(その1)」

  先日、東京に出向きまして、日本体育大学大学院の教授である大野先生の講演を聞いてきました。非常に面白く、かつ、有意義な内容でしたので、これから数回にわたってみなさまにご紹介したいと思います。
 
  さて、数年前のことです。ヒト(人間)ゲノム計画といって、ヒトの「ゲノム」、すなわち細胞の中にある人間を作るための設計図の解読が、コンピューターを駆使して国際的に行われました。調査が完了していくつかの注目すべき結果が得られたわけですが、驚いたことにゲノムの構造において、私たち人類はチンパンジーと非常に近い関係があることが判明したのです。このところは後からお話しする内容の前置きとして重要です。
 
  ここで話が変わります。現代とは大きく違い、太古の昔、私たちの祖先は食べ物を安定して手に入れることが非常に難しかったものと考えられます。すなわち、人類400万年の歴史は「飢え」との戦いであったといえるでしょう。その時代を生き抜くためには、人類は食べたものを少しでも多く、エネルギー源として身体の中に蓄えておかなければいけませんでした。実際に長い年月をかけて、私たちは少ない栄養で命をつなぐことができるサバイバル能力に長けた身体(遺伝能力)を幸運にも手にすることができたのです。(特にモンゴル系民族であるモンゴロイドにおいて。日本人もモンゴロイドの血を受け継いでいます。)以上のように、もともとは飢えに強い体質をもった身体ですから、食べ物に不自由しない生活、というよりも飽食の生活を送るようになりますと、身体は多くのエネルギーをさばききれずにいろいろと不都合な反応を起こしだすという、何とも皮肉な結果を生じるようになりました。これがご存知の生活習慣病です。ご存知のように、我が国でも昭和35年の頃から始まった高度経済成長によって、わずか10年たらずの間にそれまでの国民の生活様式は(食習慣を含めて)欧米式スタイルに急変しました。その後、便利な生活と引きかえに生活習慣病が急増してきたわけです。
 
  平成19年国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる人が約890万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」が1,320万人で双方を合わせますと約2,210万人と推計されています。平成9年の同調査では約1,370万人とあり、平成14年では1,620万人とありますので、約10年間で糖尿病が疑われる人が1,000万人近く増加したことになります。当然、糖尿病によって引き起こされる数々の病気が増えるという恐ろしい結果を招いてしまっています。
  続きは次号にて。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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