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神経内科通信

2011年10月号 「肥満と食事について(その3)」

  前々回より日本体育大学大学院の大野教授が行った講演会の内容をご紹介しています。前回は食事や運動を中心とした生活習慣の変化に伴い、それまで長い年月をかけて「飢え」に慣れてきた身体(遺伝子)は急激な環境変化に対応できず、生活習慣病という反応を起こすのだ、という具体例をご紹介しました。考えてみますと、私たち日本人が4つ足動物(動物性脂肪)を食事として摂取するようになったのはこの100年ほどのことですね。その後も高度経済成長期を経験し、多くの人々が欧米式の食事を好んで摂るようになり、その結果、生活習慣病が年々増えている事実はみなさまご存知の通りです。近頃は子どもたちの肥満が社会問題化しているようにも聞き及びます。先祖が長い時間をかけて作ってきた「飢え」に強い身体を大切にするためにも、今一度、肥満と食事との関係についてキチンと考えてみたいものです。
 
  ちょっと余談になりますが、前々回の通信の中で、ヒトゲノム解析という研究の結果、ヒトとチンパンジーは非常に近い関係にあることがわかったと書きました。大野先生は野生のチンパンジーに肥満がないことを述べられた上で、野生のチンパンジーが食べている物をそのまま私たちも食べれば生活習慣病は撲滅できるのではないか、と力説され会場内の爆笑をさそっていました。確かに、野生のチンパンジー君は動物性アブラなんて食べないですよね。
 
  さて、肥満を改善するためには、摂取するエネルギーよりも消費するエネルギーをより多くすることが大切です。これは理屈ではわかっていながら、実行するのはなかなか難しいことのように思われます。食事療法や運動療法のことを考える前に、まずは戦う相手(脂肪)を研究することからはじめましょうか。
 
  肥満の原因となる脂肪に内臓脂肪・皮下脂肪があるのをご存知ですか?前者は読んで字のごとく、内臓周囲にたまる脂肪を言いますが、厳密にはオヘソの高さで腸周囲についている脂肪を指しています。後者については特に説明はいりませんね。講演の中で大野先生は内臓脂肪を「普通預金」に、皮下脂肪を「定期預金」に例えて説明されていました。すなわち、普通預金である内臓脂肪はたまりやすく減らしやすい、そして定期預金である皮下脂肪はたまりにくく減らしにくい。この説明の通り、内臓脂肪のほうが皮下脂肪にくらべて合成・分解のスピードが早く、皮下脂肪よりも減量しやすいのが普通です。メタボ検診で測定する腹囲は皮下脂肪の厚さを測っていることにお気づきだと思いますが、このやっかいな皮下脂肪を燃やすための方法を考えてみることにしましょう。
  紙面が尽きました。続きは次号にて。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
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