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神経内科通信

2012年08月号 「こむら返り」

  私は高校生の頃、日常的にふくらはぎがつりやすく、これが数多い悩みの一つでありました。最近ではめったに経験しませんが、ふくらはぎがつるこの現象(こむら返り)に困って相談される患者さんは多いですね。ある統計では日本人の10人中5~9人にこむら返りの経験があると出ていました。
 
  こむら返りはせき髄の運動神経の過剰な興奮によって起こることがわかっていますが、実はそのメカニズムの詳細は今もなお不明です。時に神経、筋肉、肝臓、ホルモンなどの病気や薬の副作用で起こることがありますが、多くの場合、その原因はよくわからないのが現状です。東京都健康長寿医療センターの高尾先生の意見では、日常生活の欧米化、すなわちトイレの洋式化が進み、たたみの上での生活時間が少なくなる中で、日本人のアキレス腱を伸ばす習慣が減ったことがこむら返りの原因ではないかとのことでした。
 
  確かにアキレス腱を伸ばすクセをつけることは大切ではないかと思います。私自身、就寝前には必ず両足のストレッチ(ふくらはぎの筋肉を伸ばす運動)をすることにしていますが、最近こむら返りはほとんど起きなくなりました。
 
  原因がはっきりしないこむら返りに対しては、お風呂上がりの両ふくらはぎのストレッチは有効で、十分対策になり得ると考えられます。すでに暑い季節を迎えていますが、高い気温の中で汗をかきつつ運動する場合にも、こむら返りの可能性が高まります。よって、炎天下の作業・運動を行う際には、水分(時に塩分)をしっかり摂取する必要があるでしょう。このことは熱中症予防の観点からも重要です。先ほどお話しした、就寝前のストレッチ後に、少々多めに水分をとるとさらに良いという人もいます。
 
  では薬による予防方法にはどのようなものがあるのかお話ししましょう。マグネシウムがよい、マラリアの治療薬キニーネがよい、という説がありますが、前者では下痢、後者では死亡といった大きな副作用が報告され、これでは勧められません。一般的にはビタミン剤が汎用されるようです。例えばビタミンBの配合剤、あるいはビタミンEなどです。他には筋肉のけいれんを抑える効果のある漢方薬や、筋肉の緊張をほぐす薬が用いられることがあります。ですが、残念ながら確実に効果があると証明されている薬は今のところはないようです。
 
  さて、こむら返りが起こったらどうしたらよいのでしょう。筋肉が固く縮んでいる状態を急激に伸ばすよりも、軽くマッサージしながら少しずつゆっくりと伸ばすほうが効果的なようです。このことにより、筋肉の興奮を鎮める神経の働きが活性化されることがわかっています。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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