神経内科通信
2014年11月号 「手根管(しゅこんかん)症候群」
毎年寒い時期になりますと、手(指)のしびれが気になって当外来を受診される方が多くなります。詳しく問診と診察を行ったあとで、まずは内科的、整形外科的な病気がないかどうかを疑い、採血やレントゲンなどの検査を行います。ですが、ほとんどのケースではっきりとした異常を認めず、生活指導や神経の栄養剤(ビタミン剤)等の処方で様子をみることになります。
さて、手のしびれを来たす有名な病気の一つに「手根管症候群」というものがあります。今回はこの手根管症候群についてご説明いたします。手根管とは、手首の手のひら側にあるトンネルのような構造物で、その中には1本の神経と指を動かす腱(けん:指をあやつるひものようなもの)と血管が通っています。トンネルを通る神経が、スポーツや仕事による手首の過剰な運動、骨折、腱を包む膜のむくみなどにより圧迫を受けますと、指にしびれや痛みを来たすようになりますが、その状態を手根管症候群と呼ぶのです。
それではこの手根管症候群で現れる症状について説明いたします。はじめの頃は人差し指と中指の2本にしびれ、あるは痛みが出てくるのが典型的とされます。さらに病状が進んでいきますと、親指、人差し指、中指、薬指の中指側半分にまで症状が拡がっていきます。悪化が進む時期には明け方に症状が強く、目をさますと手のこわばり感を伴いつつ、しびれ、あるいは痛みを自覚します。(手を振ってみたり、指の曲げ伸ばし運動をすると症状が軽くなることがあります。)さらに症状がひどくなりますと、親指の付け根のふくらみがやせ衰えてきたり、親指と人差し指できれいな円が作れなくなってきます。(これをパーフェクト・オーサインといいます。) そのような状態に至りますと、ものをつまんだり、服のボタンをかけたり、といった指を使う動作がしづらくなってしまい、日常生活に大きな支障を来たします。
当外来では手根管症候群を疑った場合、積極的に整形外科に紹介させていただいています。そして整形外科で診断が確定しますと、痛み止めやビタミン剤、はり薬(外用剤)の処方、運動や仕事の軽減などの生活指導、手首に板を当てて固定する安静治療、腱の炎症(腱鞘炎)を治すための注射などが行われます。
以上の治療を実施したにもかかわらず、なかなか治りにくいケースでは手術療法が選択されることになります。一昔前までは、手のひらから手首にかけて大きめに皮膚を切る手法の手術が行われていましたが、現在では技術の進歩によりその必要性はなくなってきておりまして、治療後も小さな傷跡で済む内視鏡を用いた手術が行われるようになりました。
( 文・神経内科 則行 英樹 )