神経内科通信
2015年12月号 「上手な深呼吸とは」
当外来では日常的に聴診器で心臓の音、呼吸の音をチェックしています。この診察を胸部聴診といいます。もちろん、胸部聴診によって心臓の音に不整脈や雑音がないか、呼吸の音に異常がないかを調べるわけですが、実はそれだけではありません。深呼吸をしていただくことにより自律神経がバランスよく働いているのかどうかを確かめることもできます。
呼吸法は健康法の基本とも言われています。では上手な深呼吸とはいったいどのような深呼吸なのでしょう。この度、上手な深呼吸の方法について調べてみましたが、深呼吸に関して実に多くの本が出版されていることに驚きました。その中から数冊を手にしましたが、その共通するところを書いてみます。
まず、薄暗い静かな部屋で目を閉じて気持ちを落ち着かせること。座った状態でも立ったままの状態でもよいそうです。その時には必ず背筋を伸ばす(よい姿勢を保つ)ことが大事。次に胸の中の空気を一気に吐き出します。引き続いて肩に力を入れずに口や鼻から胸いっぱい息を吸い込みます。そしてちょっと間をおいてから、口をすぼめつつ長い時間をかけて息を吐き出すということです。これを数回繰り返します。ちなみにこれらの一連の動作では肩を動かさないことが大事。お腹の筋肉(腹筋)を利用するのが上手なんだそうです。ある本には、5分の深呼吸を1日に2回するだけでもよい、とありました。
では上手な深呼吸により身体にどのような効果が見込めるのでしょうか。まとめてみます。(1)リラックス効果。これはわかるような気がします。(2)安眠効果。これは深呼吸によって精神的にも肉体的にも落ち着くためでしょうか。(3)免疫力向上。身体の中に生じた異物(ばい菌やウイルス、がん細胞など)をやっつける力がアップするそうです。胸とお腹の筋肉を鍛えることによって病気に負けない身体になるということです。(4)体脂肪の燃焼効果。深呼吸によって新陳代謝が活性化し、脂肪が燃えるそうです。(5)便秘の改善。腹筋を鍛えることによって腸が活性化することによります。これは説得力がありますね。(6)生活習慣病の予防と改善。深呼吸により、血管を拡げて、コレステロールの吸収を抑える物質が肺から多く放出されるそうです。(7)冷え性の改善。深呼吸によって肺や横隔膜、お腹の臓器が活発に動くようになり、体温が上昇するとのことです。また血管を拡げる物質の作用により手足の血行も改善するとも書かれていました。これらの効能すべてが医学的に証明されているわけではないと思いますが、深呼吸の練習は身体に悪い、と考えている医者は一人もいないでしょう。深呼吸を毎日の日課にいかがでしょうか。
( 文・神経内科 則行 英樹 )