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神経内科通信

2024年3月号 腸内細菌

 「医食同源」。これは医療と食事、どちらも健康を維持するために大切だという考えです。従来より健康的な食事といえば、三大栄養素(炭水化物あるいは糖質、たんぱく質、脂質)のバランスが取れているもの、かつ、脂質と動物性たんぱくを控えたものが理想とされています。私はこれまで、そのような食事は生活習慣病の予防と治療を目的として(すなわち、各種検査データの改善を目的として)摂取するものとばかり考えてきました。しかし、前述の食事は腸内にいる善玉菌の活性化に必要であることがこの二十年ほどで明らかになってきています。

 

 腸(特に大腸)には約百兆個もの腸内細菌がいて、この中には健康増進に働く善玉菌と有害物質を生み出したり、からだの抵抗力を落とす作用を持つ悪玉菌とがいます。健康的な食事とはすなわち、これら2種類の細菌の働きのバランスを保ち、良好な腸内環境を作り出すために必要な食事のことを指すのでしょう。

 

 ヒトの腸内細菌の種類は幼児期までに決まり、それは基本的に一生変わることはないそうです。周囲の人々、動物、自然に多く触れた子ほど腸内細菌の種類は多く、逆に清潔な環境で育ち、接触する対象物の限られた都会的な生活を送った子はその種類が少ない傾向にあるようです。京都府立医科大学の内藤教授が行った調査によりますと、長寿を迎えた方の腸内細菌はその方の子世代、孫世代の方に比べて腸内細菌の種類が非常に豊富だったそうで、食生活・生活習慣の変化が腸内細菌に及ぼす影響の大きさに驚かされた、と述べておられました。

 

 さて、内藤教授によりますとより良い腸内環境を作るためには「食事の内容」「からだの活動性」「生活リズム」の3つが大事だそうです。では、それぞれを具体的に説明しましょう。まず一点目の食事内容についてですが、食物繊維の豊富な朝食が好ましく、赤身肉はなるべく減らし、大豆や魚でたんぱく質を摂ることが大切なのだそうです。(みそや塩麹(しおこうじ)などの発酵食品もよいようです。他にはキムチ、納豆、ヨーグルト、チーズなども。もちろん、塩分の量には注意が必要ですが。)次に二点目のからだの活動性について。からだを動かすこと自体、腸の働きを活発にする作用があります。からだを安静にしすぎると腸が怠けてしまい、便秘が起こりやすくなることはこれまでもよく知られています。手始めにまずは歩くこと。歩数(歩行時間)を増やすことが腸の活性化に大いに役立ちます。最後に生活のリズムです。これについては睡眠が特に大事とのことでした。質の良い睡眠は腸をしっかり休めるので、腸内環境の改善に必要なのだそうです。

 最近の研究結果で、腸内細菌が整うと逆に睡眠の質が向上するとの報告がありました。善玉菌を育てましょう!

 ( 文・神経内科 則行 英樹 )

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