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神経内科通信

2025年1月号 快眠を目指す(その1)

注目NEW
 
 これはある日の思いつきです。日常診療で患者さんにお薬を処方するときに、いったい 自分はどのようなお薬を選択して出しているのか、その内容を確認してみようと思いたったのでした。その結果、だいたい4~5人中お一人の患者さんに睡眠薬(ないし、寝る前に服用する安定剤)を処方していたことがわかり、外来患者さんで不眠の薬物治療を行っている方の多さに改めて驚いた次第です。
 睡眠薬は不眠の大切な治療薬です。しかし、私は睡眠薬を処方はするものの、不眠の背景を詳しく分析・検討し、睡眠の質を向上させるためのアドバイスにあまり力を入れてこなかったことに気づきまして、反省をしました。今回は単に眠れることに満足をせず、良質な睡眠をとるためには何が大切か、という根本的なところを学び直してみたいなと思います。睡眠の基礎から説明をいたします。
 睡眠は大事です。そんなことは百も承知なのですが、ではなぜ睡眠が大事なのかを考えてみましょう。以下は研究レベルの話になります。睡眠は子どもたちの健全な発達のために必要不可欠であることがわかっています。3歳児の睡眠時間が9時間未満であった場合、十年後には5人に1人が肥満児となっていたそうで、これは十分な睡眠がとれている子たちに比べると約1.6倍の頻度なのだそうです。また、睡眠時間は子どもの脳の発達に影響しており、睡眠時間の少ない十歳の子どもを2年間追跡した調査では、十分な睡眠時間を確保していた子どもたちに比べて学習(理解)能力が劣り、問題行動が多く、精神的にも不安定であったとの報告がありました。まさに寝る子は(健やかに)育つ、なのですね。
 では成人においてはどうなのでしょうか。実はこちらもたくさんの研究結果が発表されています。睡眠障害は特にうつ病、メタボリック症候群、認知症などの発症の可能性を高めることがわかっており、特にうつ病に関しては不眠があるケースではそうでない場合と比べて発症の危険率が約3倍に、そして認知症については約4倍であったことが報告されています。もちろん、うつ病は不眠を来たしますが、報告によりますと、うつ病を発症していない状況下での追跡調査だそうです。子どもから成人まで、睡眠がいかに身体にとって大切かを示すデータといえそうですね。だから、睡眠は大事である、と結論付けてもよいのです。
有限会社スリーピース代表で快眠セラピスト、睡眠環境プランナーである三橋美穂氏は、不眠から安眠へ、そして安眠から快眠へ、という流れを提唱なさっておられます。氏は日々の疲れを癒す「安眠」から、明日へのパワーを得るための意識的な「快眠」への変容を理論としてお持ちであり、次号では氏のアドバイスをわかりやすくご紹介してみたいと思います。
(文・神経内科 則行 英樹)
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