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神経内科通信

2018年09月号 「急に起こる腰の痛み」

 
 
少々昔のデータなのですが、平成十三年に厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」によりますと、病院を訪れる患者さんが訴える症状の第一位は「腰の痛み」となっています。もはや腰痛は国民病とも呼べる様相を呈しています。
今回は突然出現する腰の痛み、すなわち急性腰痛症について述べてみたいと思います。まず突然の腰の痛みで思い浮かぶのは「ぎっくり腰」ですね。実は私も経験しているのですが、ぎっくり腰は何気ない日常生活動作、たとえば顔を洗うために腰を曲げた、中腰のまま荷物を持った、振り返るためにからだをねじった、などがきっかけとなって腰の痛みが起こります。腰骨の関節や周囲の筋肉・じん帯などを痛めることがその原因とされています。一般的に痛みは自然に少しづつ治っていきますが、時には反復する方もおられ注意を要します。このぎっくり腰は三十歳代以降にみられる腰痛症の代表といえるでしょう。次に腰骨の骨折(腰椎圧迫骨折)が挙げられます。もともと骨が弱い(骨粗しょう症がある)方に起きやすいのですが、しりもちをきっかけに腰骨が体重でつぶれて痛みをきたします。その痛みは非常に強く、たいていのケースでは入院治療になります。これは年配の女性に多いとされるタイプの腰痛となります。
ある論文によりますと、急性腰痛症はその約10~15%が慢性の腰痛症に移行するとあります。専門医の指導のもと、しっかり治療をしなければいけません。
では、急に起こる腰痛で特に気をつけなければいけない病気を説明いたします。骨の病気でいえば、ばい菌の感染でおこるもの(骨ずい炎)、両足のマヒと排尿障害を合併する椎間板ヘルニア。この2つは緊急的に治療が必要となります。内科の分野でいえば胃かいよう、胆石、膵炎、解離(かいり)性大動脈りゅう、あたりが代表でしょうか。泌尿器科では腎結石・尿路結石や腎炎。婦人科では子宮や卵巣の炎症など。特に消化器(胃腸)や循環器(動脈)の病気は時として命にかかわることがあり、早急に各種検査を行って診断をつけ、適切な治療を開始しなければなりません。たかが腰痛、されど腰痛、でしょうか。
最後に緊急性を要する腰痛症の危険信号を簡単にまとめてみます。何より「安静にしていても腰が痛い」こと。骨折による腰痛であれば、からだを動かすときに痛むのが特徴です。次に「発熱」。ぎっくり腰や骨折では熱は出ません。もし熱があれば、骨や内臓にばい菌が感染しているのではないか、と疑うことができます。そして痛みの範囲が腰にとどまらず胸や背中にひろがっていること。この時には骨よりも内臓や血管の問題が考えられます。夜間・休日であっても様子を見ることなく病院を受診すべきです。(文・神経内科 則行 英樹)

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