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神経内科通信

2023年9月号 もの忘れ外来で気になること

  時のたつのは本当に早いものです。私が当院で外来を担当させていただき、来月で二十二年目を迎えることになりました。これまで多くの方々に支えていただきましたことに心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。
 
 さて、長く勤めておりますと、当院神経内科外来の知名度も少しずつ上がってきていることを感じます。加えてインターネットの普及から、当院のホームページで私の外来を知る方もいらっしゃいます。その結果、当外来の受診希望のお問い合わせが相次ぎ、それはそれでとても嬉しいことなのですが、少々気になることもありますので、今回はそのことにつきまして記事にさせていただきます。
 
 私の専門分野の一つに認知症があります。もの忘れ症状を持つ患者さん、そして心配されているご家族のお役に立つことが自分の使命と考え、日頃よりていねいな診療を心がけておりますが、最近、2点ほど気になることがあります。
 
 一つには、日常的に診察を担当しているかかりつけ医(主治医)がいらっしゃるにもかかわらず、その医師に相談することなく私の外来を受診なさる方が増えたことが挙げられます。どの病気も同様なのですが、診断や治療の質を決める重要な要素は「情報量の多さ」です。これまでどのような治療をして来られたのか、処方されたお薬はなにか、検査結果はどうだったのか、実はそのような「情報」が認知症診断においてとても大切なのです。加えまして、検査が重複してしまえばそれは時間とお金(医療費)のムダですし、最悪、処方薬が同一となればこれは健康問題につながります。まずはもの忘れ症状について主治医に相談していただき、その先生にもの忘れ外来受診の必要性を判断してもらってください。主治医が作成した「診療情報提供書」を持参していただけるのが理想的です。
 
 もう一つよろしいでしょうか。それは認知症患者さんの人権への配慮です。患者さんには当然、ご自分が認知症であることを知る権利があるわけですが、同時に知らずにいる権利もあることを忘れてはいけません。ご家族として心配なお気持ちはよくわかりますが、ご本人が受診を希望していないのにもかかわらず、無理やりに病院へ連れ出してさまざまな検査を受けさせ、「あなたは認知症です」と告知を受けるのは決して好ましいことではありません。また、患者さん自身に前向きに検査を受ける気がなければ、検査結果の信ぴょう性も揺らぎます。患者さんに対人不信・病院不信を起させないためにも、そして正しい診断を受けていただくためにも、事前に周到な準備を行う必要があるのです。認知症に関する地域の相談窓口を利用するなど、じゅうぶんに環境を整えて、患者さんご本人がストレスを感じない状況下での受診が望まれます。
 ( 文・神経内科 則行 英樹)
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