神経内科通信
2024年2月号 肺炎球菌ワクチン
肺の働きをご存知でしょうか。肺は空気中の酸素と体内で発生した二酸化炭素との交換(これを呼吸といいます)を司る非常に重要な臓器です。この肺に病原体(ばい菌やウイルスなど)が入りこみ、悪さをする(炎症を引き起こす)病気が肺炎です。主な症状には発熱、せき、たん、息苦しさ、胸痛などがあります。
さて、この肺炎ですが、軽症であれば適切な治療により確実に回復でき、後遺症を残すこともなく治ゆします。ですが、重症になりますと話は別で、回復困難なケースが多く、最悪の事態では生命を脅かすこともあります。実際に平成二十九年に国が発表したデータでは、感染症としての肺炎は日本人の死因の第五位になっていまして、さらに肺炎で亡くなった方を年代別で調べてみますと、六十五歳以上のグループが全体の九十五%を占めていることがわかりました。
肺炎の原因となる細菌にはたくさんの種類があるのですが、頻度が高く、かつ肺炎を重症化させやすい原因菌は肺炎球菌です。だからこそ、肺炎球菌に対する抵抗力をつけるべく、原則六十五歳以上を対象にワクチンが接種できるようになっているのです。私は多くの方がこのワクチンを接種すべきだと考えているのですが、実際には接種率は対象年齢となる方々の約3割にとどまっているとのことでした。もう少し接種率を増やさないと、社会全体で肺炎の死亡率を下げることは難しいのではないでしょうか。ちなみに肺炎球菌ワクチンはインフルエンザワクチンと同じく、個人の考えで接種を検討するタイプのワクチンです。
肺炎球菌ワクチンの接種方法は六十五歳以上で、5の倍数の年齢になる方が対象です。(4月から翌年3月までに六十五歳、七十歳、七十五歳、八十歳・・・となる方が対象です。)ワクチンには「ニューモバックス」と「プレベナー」の2つがありますが、これらには若干の使い分けがあります。肺炎球菌は約100種類が存在するのですが、特にヒトに悪さをする23種類の成分を集めたものが前者で、13種類の成分を集めたものが後者となります。では前者が圧倒的によいのか、というとそういうわけではなく、後者は免疫力がより高まるようにある種の蛋白(たんぱく)をくっつけています。よって、一般的にはニューモバックスの接種で問題はなく、抵抗力の低下状態にある方にはプレベナーを接種、という使い分けは一応できると思います。実際に小児にはプレベナーが接種されます。
ワクチンの効果ですが、その効果は約5年もつとされていて、5年ごとの接種の根拠はそこにあります。今のところ、接種を受けるたびに効果が落ちるという報告はなく、打つたびにしっかりと免疫力は上がるそうです。なお、費用についてお知りになりたい方はお問い合わせください。
( 文・神経内科 則行 英樹 )