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神経内科通信

2024年5月号 知っておくべき転倒の雑学

 

  ある統計によりますと、現在介護を要する状態になっておられる方の十人に一人は、転倒・骨折がきっかけになっているそうです。ケガをしたくて転ぶ人なんていません。私たちは転倒についての認識を深めておくべきでしょう。
 
【雑学その1】
六十歳以上に限ると、ケガによる骨折は女性の方が多いそうです。
ある統計では、六十歳以上でケガに占める骨折の割合は、男性が4.5%で女性が10.9%となっていました。骨折は明らかに女性に多いわけですが、これは女性のほうが骨がもろくなりやすく、平均寿命が長いという要因が考えられています。
 
【雑学その2】
骨折がよく起こる部位は、腰骨、足の付け根、手首です。私が救急病院に勤めていた頃、足の付け根の骨が折れたご年配の方の救急搬送を数多く経験したことを思い出します。ほとんどのケースでは手術となりますが、回復(退院)までに相当な時間を要していたと記憶しています。足の付け根骨折以外にも、転んで地面に手をついた際に手首の骨を折ってしまったり、尻もちをついた時に腰の骨(腰椎)をつぶしてしまうこともあります。そうそう、調べてみますと、腕の付け根の骨もよく折れるそうです。これは本当に油断大敵ですね。
 
【雑学その3】
足の付け根を骨折(大腿骨頸部骨折)した後の5年生存率は、早期乳がん・早期前立腺がんに比べて悪いという報告もあります。残念ながら、骨折の後には期せずして寝たきり状態になってしまう方も一定数おられます。実はそのような方々に肺炎、尿路感染症、心不全といった数々の合併症が起きやすく、時としてそれらが生命にかかわる状況を生み出すことにもなるのです。
 
【雑学その4】
転倒は生活環境要因が大きくかかわることがわかっています。この生活環境要因を挙げてみますと、階段、部屋の段差、暗い照明、すべりやすい床やお風呂場、動きやすいマット、スリッパ、厚いじゅうたん、床の配線などがあります。骨折を起した方の約三分の一は、この環境要因が関与していたとか。
 
【雑学その5】
高齢者に起こるケガの半数以上は住み慣れた家の中で起こっています。ケガを負われた方の約6割が、住み慣れた家の中でのトラブルだったそうです。興味深いことに、ケガの半数以上は玄関・階段・お風呂場・トイレではなく、多くの時間を過ごす居間で起こっていることがわかっています。
 
【雑学その6】
転倒の引き金となる身体の要因は「筋力低下」がもっとも重要なのだそうです。足腰の筋肉の弱っている方は、そうでない方に比べてなんと6.2倍もコケやすいことがわかっています。昔からよく「老化は足から」と言われていますが、日頃から意識して足腰を鍛える習慣を持つことは、転倒予防の観点からしても、とても好ましいことが理解できますね。
 ( 文・神経内科 則行 英樹 )
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