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神経内科通信

2024年6月号 動脈を守るという意識

  高い血圧はよくないですヨ。血糖値が上がり過ぎてはダメです。悪玉コレステロールの数値は低くしなければ。太り過ぎはイカンですなあ。こう書きますと「そんなことは当たり前でしょ、なんだい今さら」と叱られそうです。でも私は思います。私たちはともすれば検査の数値ばかりに目が向いてしまい、なぜそれら数値の改善が大切なのか、という本質を見失いがちではないでしょうか。

 

 高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病がなぜイケないのか、それは動脈(心臓から送られてくる血液を通す血管のことです)の劣化を異常に早く進めてしまうからなのです。動脈の劣化が進んでしまうと、その内腔が詰まったり、時に壁が破れたりします。もう少し具体的にご説明いたしましょう。「動脈硬化」をお聞きになったことがおありでしょう。動脈硬化を簡単に説明すれば、これは動脈の老化現象です。だったら、動脈硬化というのは高齢者に特有の現象なのだな、と思われませんか?実は違います。その昔、アメリカでの学会発表で、二十歳から三十二歳までの若者111人の解剖を行ったところ、実に全体の8割弱に動脈硬化が見られたという報告がありました。国内でも、不幸にして交通事故で亡くなった健康な9歳の女児に、すでに動脈硬化の徴候が認められた、という衝撃的な報告があります。ということは、年齢にかかわらず生きている限り、動脈硬化を避けることは不可能だといえます。でも悲観的になることはありません。年齢相応の動脈硬化であれば、それは単に正常の老化現象だと考えてよいのです。医学的に問題になるのは、実年齢が30歳なのに70歳レベルの動脈であったり、実際には60歳なのに100歳レベルの動脈となる、すなわち、実年齢よりも動脈年齢が異常に早く進んでしまうことにあるのです。そして動脈が原因で起こる病気の特徴は、発症するその直前まで、元気でいつも通りの生活が送れて

いることにあります。たとえ症状が出ていなくても、本人が気づかないうちに動脈がじわじわとむしばまれていることになるわけで、これが生活習慣病の怖さといえるでしょう。症状がないから自分は大丈夫、という思い込みはダメです。

 

 動脈硬化を調べるには検査を受けていただくことになります。外来で簡単に実施できるものには、頸動脈に聴診器を当てて雑音の有無を調べる聴診法。足の背にある動脈の拍動の左右差を調べる触診法。胸のレントゲンに写る動脈の状態をチェックする方法などがありますが、もっと客観的に調べようと思えば、目の奥の動脈を見る眼底写真、頸動脈に超音波を当てて内腔の状態を観察する頸動脈エコー検査などがあります。今後はこのような検査が重視されるものと考えておりまして、当外来でも実施を検討中です。

 ( 文・神経内科 則行 英樹 )

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