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神経内科通信

2024年9月号 かくれ不整脈

注目

漢方医学の世界では、はっきりとした症状はないものの、からだが病気に向かっている状態を「未病(みびょう)」と称しています。日本未病学会(この学会の存在を私は初めて知りました)は未病を、

  • 検査値に異常はないが自覚症状がある状態、
  • 自覚症状はないが検査値に異常がある状態、と定めています。 


今回のテーマは不整脈です。心臓の拍動が規則的で、毎分60回~85回(~100回)と安定している状態が正常ですが、この心拍リズムがおかしくなったものを不整脈といいます。単に不整脈があるだけであれば、無症状であることも多いのですが、実はこの不整脈が未病を作り出している可能性があるのです。このたびは気をつけておきたい不整脈を2つだけ取り上げてみたいと思います。

 ☆気をつけておきたい不整脈その1:心房細動(しんぼうさいどう)

心房をご存知ですか? 心臓は肺や全身に血液を送り出すポンプです。血液は心臓の左右に2つある心房という部屋にまず集められ、次に同じく2つある心室という部屋にそれぞれ流れて、肺と身体各所に送られます。このように心房の筋肉が先に縮んでから心室の筋肉が縮むわけです。さて、心臓が規則正しく拍動を刻むためには、心臓の筋肉に縮むことを命令する掛け声(ペースメーカー)が必要になります。(掛け声、とはいってもこれは電気信号ですが。)この電気信号が心房の筋肉の中で暴れまくるために心房の筋肉が細かく震えるような動きとなり、さらには心室の拍動が不規則になってしまう不整脈が心房細動です。この不整脈の問題は心房内に血液のよどみが生じ、血栓(けっせん)と呼ばれる血のかたまりを作ってしまうことにあります。心房細動は発作的に出現することがありまして、定期診察や健診において偶然発見されることがあります。動悸や胸の不快感といった自覚症状がないケースでは聴診と心電図検査が重要です。

☆気をつけておきたい不整脈その2:洞不全(どうふぜん)症候群             

心臓の筋肉に対して「縮め」という掛け声を出す細胞に異常が生じてしまい、筋肉に掛け声が届かないために、めまい、脱力、失神といった症状を引き起こす不整脈、それが洞不全症候群です。脈が非常に遅くなるので、めまい、ふらつきといった症状が起こりやすく、重症になりますと数秒間心臓が停止してしまう状況となって意識をなくし、その場に倒れてしまうことがあります。逆に軽症のケースでは無症状のことも。治療方法ですが、洞の機能を回復させる有効なくすりは今のところなく、治療は心臓ペースメーカーの植え込みが中心となります。

自覚症状がなくても未病としての不整脈の存在は非常に重要です。定期診察、定期健診を受ける意義は大きいものがあるのです。

 ( 文・神経内科 則行 英樹 ) 
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