神経内科通信
2008年10月号 「無症候性(むしょうこうせい)脳こうそく」
あなたは無症候性脳こうそくという病名をご存じですか?脳こうそくとは脳血管の一部がつまったり、部分的に脳内の血のめぐりが悪くなるために脳にキズがついてしまった結果、マヒやしびれ、呂律(ろれつ)が回らなくなるなどの症状を長く残してしまう病気です。最近、健康ブームの流行のためでしょうか、脳の検査をおこなう方が次第に増えてきていますが、その方々の中にはマヒやしびれなどの症状が全くないのにもかかわらず、小さな脳こうそくが見つかるケースが非常に多くなっています。
そのような場合、外見は健康でとても元気に見えるものですが、検査の上では脳こうそくという病気を持っていることになります。このように症状のない脳こうそくは「無症候性脳こうそく」と呼ばれるようになりました。いろいろ調べてみますと、その頻度は65歳以上の健常者でなんと3~4割(10人中3~4人)にのぼるといわれています。
さらに最近の研究では、無症候性脳こうそくを持っている方は、その後の様子を長く見ていると無症候性脳こうそくを持っていない方と比較して、症状をともなう脳こうそくの発病率が格段に高くなっており、注意すべきだと考えられるようになりました。加えて、無症候性脳こうそくの患者さんは将来において認知症やうつ病を起こしやすいこともよく言われています。
わが国において、寝たきりの原因となる病気の第一位は脳卒中です。したがいまして当外来では今後、脳卒中(脳出血と脳こうそく)の予防にいっそう力を入れていこうと考えております。特に脳こうそくに関して言いますと、血管の老化(動脈硬化)の進み具合と不整脈のあるなしが問題になります。身内の方に血管の異常が原因で起こる病気、例えば脳出血、脳こうそく、くも膜下出血、心筋こうそくなどにおかかりになった方がいらっしゃる場合、以前にご自分が肥満・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症の指摘を受けておられる場合、動悸がしたり、すでに不整脈の診断を受けておられる場合などは十分に注意が必要です。
無症候性脳こうそくは痛みを伴わない検査で簡単に見つかります。当院ではCT検査とMRI検査を実施しています。CT検査はレントゲンを用いた一般的な検査で、MRIではさらにくわしく脳を調べることができます。たとえば、脳の中にあるごく小さい病気の発見、血管のこぶ(動脈瘤:どうみゃくりゅう)の発見、首の血管(頚動脈:けいどうみゃく)にある異常などの発見ができます。くわしくは外来にてお気軽におたずねください。
( 文・神経内科 則行 英樹 )