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神経内科通信

2009年07月号 「食中毒」

  昨年末、私は自分の子供からウイルス感染症である嘔吐下痢症を移されました。高熱、嘔気、激しい下痢に悩み、あの苦しさは今でも忘れられません。今回は嘔吐下痢症と同じく嘔吐や腹痛、下痢を主症状とする食中毒について、簡単にお話しようかと思います。もちろん、夏場には十分注意が必要です。
 
  食中毒とは食物や水を原因とする急性胃腸炎(時に神経症状)の総称です。そして、食中毒はそれを疑わなければ絶対に診断に至らないことを強調しなくてはいけません。同じ食事を食べた家族に同時に下痢が起こった、同じお弁当を食べた人に腹痛や嘔吐がおこった、など医者は詳しく事情を聞く必要があります。食べ物の内容としては、生肉・生焼けの肉・卵料理(サルモネラ菌)、海鮮類(腸炎ビブリオ)、鶏料理(カンピロバクター)、人の手による食品、例えばおにぎりやお弁当(黄色ブドウ球菌)などに注意して問診します。
 
  さて、食中毒には毒素型と感染型がありまして、それぞれ特徴を異にします。一般的な細菌性の食中毒のお話をしますと、毒素型は発病が早くて、食事後数十分から数時間で症状が起こります。また、発熱がみられないことが多くありますので注意しなければなりません。いっぽう感染型のほうは発病が遅く、食事後少なくとも6時間以上、長いものでは1週間くらいしてから発熱や腹部症状が起こることがあります。一般に嘔吐、腹痛、下痢という症状の激しさだけからでは、これらの判別が難しいとされていますが、感染型食中毒の特徴として発熱のほかに、便に血が混じりやすいということが言えるかもしれません。いずれにしても、くわしい問診が診断のカギを握っていることになります。
 
  一時期、腸管出血性病原性大腸菌(O-157)が大きな社会問題になったことがありました。この大腸菌による症状ですが、感染後に高熱こそ来たさないものの強い腹痛・血便といった胃腸炎症状を呈し、それが一段落した後に尿毒症を来たすという大変恐ろしいものです。これは感染型と毒素型の両方の特徴を持っているタチの悪い病気といえそうです。
 
  治療の話です。原因菌の種類や症状により若干違ってきますが、基本は嘔吐や下痢に対する対症療法となります。場合によっては抗生物質を併せて使用することもあります。下痢は早く止めたいわけですが、腸の中の毒素を洗い流すために、従来より下痢止めはむしろ使わないほうがよいと言われています。もちろん、整腸剤は積極的に用います。
 
  食中毒の予防のためには、正しい食材管理、適切な調理法、確実な手洗いが極めて大切であることは言うまでもありません。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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