神経内科通信
2018年07月号 「熱中症予防とビタミンB1(ビーワン)」
先日、熱中症対策の勉強会に参加いたしました。講師は大分大学医学部名誉教授の三角(みすみ)先生で大変参考になりましたので、その講演の内容の一部をご紹介したいと思います。キーワードは「ビタミンB1」です。
私はこれまで熱中症対策として、体力、環境(気温と湿度)、ならびに水分と適度な塩分の摂取で十分だと考えてきました。しかし、それだけでは完全ではなく、この度の勉強会ではビタミンB1不足に注意すべきことを知りました。
ビタミンは言うまでもなく、私たちが生きていく上で必要不可欠な栄養素の一種です。では、ビタミンB1はどのような働きするのかといいますと、大きく2つありまして、ひとつは身体活動に必要なエネルギーを生み出すこと、もうひとつには神経や脳の働きを守ることです。そういえばその昔、脚気(かっけ)という病気がありました。これはビタミンB1不足によって引き起こされます。全身のだるさ(ひどい脱力感)、手足のむくみやしびれ、食欲不振、吐き気などが主な症状ですが、驚くことに江戸時代には年間数十万人が、そして明治時代には年間数万人がこの脚気で亡くなっていたそうです。それではこれは遠い過去の病気かと思いきや、近年もカップラーメン(インスタント食品)の摂りすぎで若い方々を中心に脚気が発症したことがあり、その後、インスタント食品にはビタミンB1が添加されるようになっています。ちなみに、長期にわたる点滴栄養の患者さんに対しても、ビタミンB1は必ず点滴内に加えられます。
話がそれました。熱中症とビタミンB1との関連ですが、もともとビタミンB1は水に溶けやすい物質であり、多量の汗と共に体の外に出ていってしまいます。しかも、水に溶けやすいという性質から、必要時に備えて体内に蓄えておくことができません。三角先生のお話によりますと、急激にビタミンB1が失われることにより神経系に不都合が生じてしまい、熱中症がより重症化しやすいのではないかとのことでした。単に水分不足だけの問題ではないのですね。
ビタミンB1はどのような食品に含まれているのでしょうか。特に豊富なのは豚肉とうなぎの2つで、他にはハム、たらこ、小麦粉、大豆やグリンピースなどの豆類などがあります。たしかに、うなぎは夏バテにも効きそうですよね。
まとめてみます。熱中症対策に関しては、体力増進と作業環境に気を付けていただくことを前提に、汗の成分に似たドリンク剤(オーエスワン、ポカリスエットなど)に加えてビタミンB1を含んだサプリメントが好ましい、ということになるでしょうか。今年も暑くなりそうです。ご自分の体質に合った熱中症対策をお考えになってください。 ( 文・神経内科 則行 英樹 )