神経内科通信
2019年04月号 「サルコペニア」
あなたは健康寿命をご存知ですか?これは平成十二年に世界保健機構(WHO)が提唱したもので、簡単に説明しますと「生涯で健康で過ごせる期間」を表したもの、といえます。大分県が平成二十八年に調べた統計によりますと、大分県の健康寿命は男性が71.54歳で全国36位、女性が75.38歳で全国12位とのことでした。平均寿命と健康寿命の差が小さいほど、元気な人生を過ごせたことになります。大分県の男性はしっかりと考えなくてはいけませんね。健康寿命を短くする主な原因が前回お話した「フレイル」なのですが、フレイルを加速させる要因の一つに「サルコペニア」というものがあります。
当たり前のことですが、年齢を重ねますと若いころに比べて筋肉量が減ります。ある研究によりますと、20~30歳代に比べて70~80歳代では身体を動かす筋肉(骨格筋)の量が3~4割も減ってしまうそうです。筋肉量が減りますと運動量や運動の質が低下していきます。すなわち、必要な場面で筋肉の力が出せず、時にはバランスを崩して転倒しやすくなったり、また身体を動かさないことによるさまざまな障害(生活不活発病とも呼ばれます。)が生じることになります。その結果、要介護状態に進んでいく、という流れになります。
最近の研究で「歩くスピードと握力の低下」と「寝たきり状態」との間には密接な関係があることがすでに判明しています。寝たきり状態の出発点となる手足の筋肉量が異常に減少した状態を「サルコペニア」と名付けたのは約三十年前のことですが、十年ほど前よりサルコペニアの基準は歩行速度チェックと握力測定が取り入れられています。(1秒当たり80センチメートル以下の歩行スピード、男性で26キログラム未満の握力、女性で18キログラム未満の握力でサルコペニアを疑うことになります。)
さて、年齢を重ねれば誰もが筋肉の衰えを経験します。それはたとえば、筋肉を作るたんぱく質の合成がうまくいかなかったり、体内ホルモンのバランスが崩れたりでこればかりはどうにも仕方がありません。しかし、問題は年齢以外の要因でおこる筋肉の衰えです。運動不足、栄養の偏り、脳卒中、内臓の病気、薬の副作用など、挙げればたくさんありますが、まずはこれまでの生活習慣の見直しが大切となるように思います。
長寿社会となった今、食事による栄養管理、バランス能力・体力の維持、転倒・骨折予防法などは、一人ひとりが意識すべき時代なのかもしれません。
サルコペニア対策は、冒頭に述べました健康寿命を延ばすキーワードとなりそうです。関心をもっていただければ幸いです。(文・神経内科則行英樹 )