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神経内科通信

2019年09月号 「脳の疲労にご注意を!」

 日本WHO協会が「健康」とはいったいどのような状態をいうのかについて説明しています。協会によりますと健康とは「病気ではないとか身体が弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態にあること」としています。この説明によれば、単に身体の状態が良好であるだけでは健康とは言えない、ということになります。身体、精神、環境の3つの調和がとれた状態が健康ということになるでしょうか。身体の健康ばかりが強調されがちですが、実は脳の健康も重視されなくてはいけません。
 最近、脳疲労という言葉をよく見聞きするようになりました。簡単に言ってしまえば、脳疲労とは脳の不健康な状態を意味しています。今の時代は昔と比べものにならないくらい世の中 の情報量が増え、生活環境・人間関係も複雑になり、日々一つ一つに対処することが非常に困難になっています。私たちは絶え間なく脳に入ってくるたくさんの情報を整理し、適切に対応・反応することで日常生活を営んでいますが、もし、脳が処理しきれないほどの情報がいっぺんに押し寄せたらどうなるでしょうか、そのところを考えてみたいと思います。
 人間の脳の中には、周囲の情報を積極的に取り入れる部署とその情報を分析する部署が別々にあり、さらには、その分析をもとに適切に身体をコントロールする部署も存在します。これら3つの部署のバランスがとても重要なのですが、情報量が異常に増えてしまって脳が情報を処理しきれなくなりますと、3つの部署のバランスが崩れて身体のコントロールが破綻してしまい、頭痛、めまい、不眠、うつ気分、だるさ、などの身体症状が出現するようになります。これまで慢性疲労症候群として原因不明の身体疲労として片付けられていたものには、脳疲労が高い頻度で潜んでいることがわかってきました。パソコンやスマートフォンの長時間の使用、ノルマを伴うハードな仕事、解決困難な問題に長く向き合ったり、ややこしい人間関係の中に長い時間身を置くことも多い世の中です。脳疲労は誰にでも容易に起こりえるのだと考えなくてはいけません。
 脳疲労を完全に予防することは非常に難しいわけですが、少しでも疲労を軽減する方法はあります。作業・仕事の合間に小休止(ぼーっとする、あるいは遠くの景色をぼんやり眺める時間)を設ける。日常的に軽く身体を動かしたり、ストレッチをしてみる、あるいは少し歩いてみる習慣を持つ。なるべく仕事量を分散させる、たとえば仕事を一日で終わらせようとしない、他の方と分担するなどの負担軽減。脳疲労を証明する医学的な検査はありません。ひとり一人が自分の脳に優しい生活を心がけるしかないようです。( 文・神経内科 則行 英樹 )
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