神経内科通信
2021年4月号 入浴の医学
ある調査によりますと、ほとんどの日本人はお風呂好きであり、嫌いな方はごく少数なのだそうです。私はシャワー派ですが、それでも肩まで湯船につかると身も心も癒されますね。今回は入浴の効用について医学的に解説します。
まず、お風呂のお湯の温度は自律神経の働きに影響します。自律神経には2種類ありまして、全身に活力を与える交感神経、逆に活力を温存して身体をリラックスさせる副交感神経の2つです。実はお湯の温度がこれらの働きに影響することが知られています。一般的に日本人の好きなお湯の温度は40度から42度とされていまして、だいたいこれは「少々熱いかな」と感じるレベルなのだそうです。この「ちょっと熱いな」と感じる程度がほどよく交感神経を刺激して身体に活力を与えることになり、入浴後の勉強や仕事をはかどらせるのに役立ちます。逆に40度をよりも温度が低くなると若干のぬるさを感じ、この温度では副交感神経が刺激されて入浴後のリラックスには良いようです。このように入浴後の効果を考えて温度設定をすることができるのですね。埼玉医科大学の倉林教授によりますと、年配の方ほど熱めのお湯(42度以上)を好む傾向にあり、その際、血の中の血小板という血の塊をつくる物質が固まりやすくなり、血栓( けっせん: 血の塊のこと)ができやすくなって血管を詰めてしまう危険性が増すそうです。特に年配の方ほど、寒い時期の熱いお湯が良くないとおっしゃっています。ここは一応、注意が必要ですね。
お風呂につかる時間についてもいろいろな研究がありますが、一般的には5分から10分、おでこに汗をかくかかかないかくらいの時間が良いようです。それ以上になりますと身体の中の水分が失われ、脱水症となりますので注意。
最後に入浴剤についてです。倉林先生によりますと、炭酸ガスを発生させる( 炭酸泉温泉と同じ効能)を持つ入浴剤が年配の方には良いだろうとのことです。私は知らなかったのですが、炭酸ガスは皮膚から直接浸透して血管に届いて血管の筋肉をゆるめ、その結果血管が拡がって血流がよくなります。よって脳卒中後の方、高血圧をお持ちの方、一般的にご年配の方に適切ではないかとのことでした。筋肉の疲労もとれそうですね。私も試してみたいと思います。
なお、高度の心不全をお持ちの方に肩までつかる入浴はお勧めできません。
全身にお湯の圧がかかると心臓の負担となりますので、みぞおち、あるいはおへそのあたりまでつかる半身浴・腰湯をお勧めします。あと、お酒をたくさん飲んだ後の入浴は低血圧や脱水症の原因となりますのでお気をつけください。ご自分に合った入浴方法で健康増進ですね。 ( 文・神経内科 則行 英樹 )