神経内科通信
2022年11月号 ちょっと面白い名前の症候群
① 不思議の国のアリス症候群 ・・・
「不思議の国のアリス」とはイギリスの作家によって書かれた児童文学の本の題名です。アリスという主人公の女の子が不思議の国に迷い込み、奇妙なキャラクター達と出会い、身体が大きくなったり小さくなったり・・・。その内容は現実にはおこり得ない物語となっています。さて、不思議の国のアリス症候群ですが、私は過去に3名の患者さんと出会いました。お一人は「遠くのものがとても近くに見えてしまい、遠近感がつかめなくて困る」という症状で、残りのお二人は「目の前のものがひっくり返って見える」というものでした。当初、私はそれらの症状が信じられず、仮病ではないかとまで考えましたが、よくよく調べてみますと不思議の国のアリス症候群による症状なのでした。(診断に苦しんだ分、物がさかさまに見えるという2例目の患者さんの診断は実にスムーズでした。)脳の過剰な働きをおさえる作用のあるてんかんの薬がそれらの症状に非常に効果的でした。
② 頭内爆発音症候群・・・
少々インパクトの強い名前の症候群です。この症候群は寝入りばな、あるいは睡眠中に突然、実際には聞こえていない爆発音や破裂音を感じて目が覚めてしまうという特徴があります。さて頭の中で感じる音の性質ですが、カンという高く乾いた音から、ドンという低く重ための音までさまざまで、たいてい大きめの音に感じるようです。音が気にならない方も多くおられるらしく、意外と頻度が高い症候群ではないかといわれています。特効薬はありませんが、うつやてんかんに用いる薬、あるいは脳内のカルシウムに作用する薬などが用いられますが、基本的には自然と消失するようです。(専門書には睡眠障害の一つである、と書かれていました。)
③ むずむず脚(あし)症候群・・・
これはご存知の方が多いと思います。夕方以降、夜半にかけて、じっと座っていたり横になったりしていますと、足がムズムズ、ピリピリ、ジンジンしてきて思わず足を動かしたくなる衝動にかられます。足を動かすと症状は消えるのですが、再びじっとしているとまた同様の症状をくり返すという特徴をもつ症候群です。透析中の方、妊婦さん、鉄分が足らないタイプの貧血の方、パーキンソン病・糖尿病の方に多い、との報告がありますが、原因不明のケースもかなり多いようです。治療としては原因となる病気のコントロールが基本となりますが、夕方以降の飲酒やカフェイン(コーヒー・紅茶・緑茶など)の摂取が症状を悪化させることが知られていますのでそれらを制限し、特に症状の強い方にはドパミン受容体作動薬という薬(飲み薬と貼り薬があります)が処方されます。
( 文・神経内科 則行 英樹 )