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神経内科通信

2023年10月号 帯状疱疹(たいじょうほうしん)ワクチン

  

 帯状疱疹という病気をご存知ですか。右半身か左半身、どちらか一方の顔や上半身を中心に、神経の走行に沿ってピリピリと刺すような鋭い痛みが起こり、やがて皮ふに赤みを帯びたぶつぶつが帯状に出現してきます。痛みは非常に激しいことが多く、あまりの痛さに夜も眠れない方がいらっしゃいます。通常はぶつぶつが消えれば痛みは治まるのですが、時に痛みが長く残ることもあります。

 

 帯状疱疹は水ぼうそうと同じウイルスが原因で起こります。水ぼうそうは多くの子どもがかかる病気として有名ですが、ある研究によりますと、日本人の九割以上で成人になってもこのウイルスが体内に潜伏し続けるとのことでした。著しい疲れやストレス、免疫が低下した際に潜伏していた水ぼうそうウイルスが暴れ出し、帯状疱疹を発症するというわけです。男女を問わず五十歳を超えますと、急激に発症率が高くなります。たとえ健康に過ごせていても、五十歳から八十歳までに三人に一人が帯状疱疹を発症するというデータがありました。帯状疱疹ワクチン対象年齢が五十歳以上と決められた理由は以上によります。

 

 帯状疱疹を発症する方は明らかに年々増えています。その原因について、奈良県立医科大学の浅田教授は2つの要因を挙げておられます。一つには免疫力の落ちやすい高齢者人口が増えてきたこと、もう一つは、平成二十六年からお子さん方に水ぼうそうワクチンの定期接種が始まったことです。お子さん方のワクチン接種率が向上したことにより、水ぼうそうの流行が激減しました。その結果、成人が水ぼうそうウイルスにさらされる機会が減り、ウイルスを吸い込むことによる免疫の活性化が図られない状況になっているのです。実際、二十代~四十代の年齢層、すなわち子育て世代の帯状疱疹が増えているとの調査結果が平成三十年に発行された学会誌に発表されていました。

 

 さて、帯状疱疹ワクチンには二種類あります。一般的なものは、お子さんに接種する生ワクチンと同一のものです。これは歴史のあるワクチンで、安全性に関しては大変優れています。また、一回の接種で済み、7千円から1万円が相場です。もう一つには遺伝子組み換え型ワクチンがあり、こちらは発熱や頭痛などの副作用が約6割に見られ、2回接種で費用は約4万円となります。ただし、効果については後者の方が優れており、医師としてみなさまにどちらのワクチンをお勧めすべきかについては、非常に悩ましく感じるところです。

 

 帯状疱疹にかかった方は五年から十年は免疫がありますので、ワクチンの接種は最低五年間、必要ありません。なお、免疫力の落ちている方は生ワクチン(生ウイルス)が接種できませんので、医師に相談を。

 ( 文・神経内科 則行 英樹 )

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