神経内科通信
2023年11月号 アレルギーのくすりと眠気
三十年も前の話ですが、私が内科医として独り立ちした頃、外来で処方するアレルギーのくすりといえば、もっぱらじんましん、あるいはぜんそくの方向けだったように記憶しています。現在はどうかといえば、もっぱら花粉症の方々に対して処方しているように感じます。実際にこの三十年、花粉症の方の総数は増え続け、アレルギー性鼻炎(鼻アレルギー)に関していえば、日本人の2人にひとりがこの病気を持っているそうです。これはもはや国民病といえるでしょう。
興味深いデータがあります。日本耳鼻科学会によりますと、鼻アレルギーの患者さんの総数はこの三十年ほどで2倍となっており、特にスギ花粉を原因とするケースが格段に増えているそうです。スギ花粉症は一度かかると非常に治りづらく、壮年期を過ぎてから自然に治る人は全体のわずか一割強にとどまります。また、スギ花粉症となる人は5歳から成人を迎える年代で急激に増加することが知られており、この時期に予防を徹底する必要性が叫ばれています。コロナ禍の令和3年、福井県で行われた約4万人の小学生を対象にした調査によれば、毎年約3%の割合で児童に発症していた花粉症が、マスク着用が功を奏したのか、その年は約1%強の発症率に終わったそうです。花粉症の発症予防のため、スギ花粉の時期になったら、子どもたちにマスクの着用を推奨することが大切なのかもしれません。将来的な医療費抑制のためにも検討すべきでしょう。
前置きが長くなりました。今や世代を問わず、多くの方々がアレルギーを抑えるくすりを服用しています。アレルギーの治療には、体内でアレルギー反応を引き起こす「ヒスタミン」という物質の働きを抑えるくすりがよく用いられますが、実はこのくすりの副作用に「眠気」があるのです。場合によっては眠気にまで至らなくても、集中力や判断力の低下を引き起こしていることがあるかもしれません。ある調査では、トラック・タクシーの運転手さんの半数以上が眠気の副作用を知らずにアレルギーのくすりを服用していたことが明らかになりました。
日常的に処方するくすりで、説明書に車の運転に対する注意記載がないものが4種類ありますが、それでも「眠気が起こるかもしれません」と説明することは必要なのだと私は考えています。100%大丈夫、なんてあり得ませんよね。
ニュースでよく見聞きする高齢者ドライバーの事故。果たして認知症だけが原因なのでしょうか。背景にアレルギーのくすりの影響がないだろうか、と少々心配になっています。最近では、スギの成分の入ったタブレットを毎日舌の裏側でなめる、眠気の起こらない舌下免疫療法がよく行われるようです。気になる方は耳鼻いんこう科にて相談をなさってください。
( 文・神経内科 則行 英樹 )