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神経内科通信

2012年05月号 「脂質異常症」

  今回のお話のテーマは脂質異常症です。脂質異常症を簡単に説明しますと、血液中の脂質(具体的にはコレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類)の量に異常をきたす病気です。困ったことに、血液中の脂質が異常に増えたとしても身体には何も症状が出ません。そのために検診を受けて異常を指摘されているのにもかかわらず、気にならずに病院を受診することなく放置してしまう結果になります。これでは何のための検診なのか、さっぱりわからなくなってしまいますね。あなたはいかがでしょうか?
 
  では、脂質異常症を放置していたらどうなるのでしょう。その場合、増えた脂質(特に悪玉コレステロール)が次第に血管の内側にたまって動脈硬化、すなわち血管の老化現象を進めてしまいます。ところがさらに困ったことに、動脈硬化が進行しただけではまったく自覚症状が出てきません。脳こうそくや心筋こうそくの発作を起こして、脂質異常症の重大さ、恐ろしさに気づくということになります。これでは手遅れです。
 
  当外来では特に、悪玉コレステロール、善玉コレステロール、中性脂肪の値に注意を払います。すなわち、悪玉コレステロールが多いタイプ(高LDLコレステロール血症)、善玉コレステロールが少ないタイプ(低HDLコレステロール血症)、中性脂肪が多いタイプ(高トリグリセライド血症)に分けて治療を検討します。中性脂肪それ自体は動脈硬化の原因にはなりませんが、悪玉コレステロールが増えやすくなり、間接的に動脈硬化を進行させます。
 
  このように自覚症状がない脂質異常症については、血管の老化現象を加速させないように早く見つけて治療に結びつけることが大切です。とはいえ、いきなり薬物治療を行うことはありません。まずは食事療法と運動療法を行うことをお勧めしています。食事療法の重要性は言わずもがなです。ここでは運動療法のポイントをまとめておきましょう。運動療法により「過剰なエネルギーを消費し、脂肪が皮下や内臓に蓄積されるのを防ぐ」、「血行を改善して血管の弾力性を維持し、血管を拡げることから血圧を下げて動脈硬化を防ぐ」、「体内脂肪を調節する酵素の一つであるリパーゼを活性化させ、悪玉コレステロールを減らしてHDL善玉コレステロールを増やす」という効果が期待できます。
 
  運動はエネルギーを上手に消費し、身体の血行を改善する目的で行うので、ハードな運動は全く必要がありません。空気中の酸素をたくさん吸い込み、消費しながら行う有酸素運動(例えばウォーキング)が効果的です。自分に合った、長く続けられる運動を選んでください。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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