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神経内科通信

2012年09月号 「軽度認知機能障害」

  当院の「もの忘れ外来」を受診される方は年々増えてきています。受診される方の中には、特にもの忘れはひどくないが、とても気になるから調べてほしいと希望されるケースもしばしばです。やはり、認知症は世間的に関心が高いということになるのでしょう。当院では問診や数々の検査を通じて認知症の診断を行いますが、最近、問診や記憶力テストにて明らかな認知症症状を認めない(すなわち認知症の基準を満たさない)ものの、明らかに記憶力が落ちている方をみるようになりました。このように、記憶力は低下していても他の認知機能障害はあらわれておらず、日常生活にも支障を来たしていないという状態を医学的に軽度認知機能障害と称していて、この数年でよく用いられるようになっています。
 
  軽度認知機能障害とは、「認知症ではないけれど記憶力が低下している状態」をいうわけですが、一般的に次の5項目すべてが当てはまるとされています。
 
  • 自分自身も周囲の人も当人の物忘れを自覚している。
  • 新しいことを覚えられない、覚えたことを維持できない、思い出せない。
  • 身の回りの状況を把握する能力(認知機能)は保たれている。
  • 基本的に日常生活は自力で可能である。
  • 病院で認知症と診断できない。
 
  確かに一般的な老化現象として、軽度の認知障害を認めることはよくあります。しかし、その場合には治療の対象とはならず、医学的に問題になることはまずありません。困るのは、記憶力のみの低下を来たしている方の約1~2割が数年後に認知症に移行することが知られているのです。(あるデータによりますと、記憶障害のみの4年後の認知症への移行率は24%とあります。)このように軽度認知機能障害はアルツハイマー型認知症の前兆である場合がありますので、注意をしておかなくてはなりません。年のせいとばかり言えないのですね。もし、アルツハイマー型認知症だと診断ができて、すぐに治療を始めることができれば病気の進行を遅らせる効果が期待できます。
 
  アルツハイマー型認知症では典型的な脳の血流低下が初期から確認されますので、画像検査(脳血流シンチ(SPECT))にて早期に診断をつけることが可能です。ですから、軽度認知機能障害と思われる方には脳血流検査を勧めることになるわけですが、これは簡単・気軽にできる検査ではありません。大分大学医学部付属病院の吉岩先生によりますと、外来でも簡単に診断をつける方法があり、3つの単語を覚えてもらったり、図形の模写をしていただくことによって、間接的に脳の血流低下を推し量ることができるとのことです。私もその方法を実施しています。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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