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神経内科通信

2008年04月号 「メタボリック・シンドローム」

  「老化現象」にはどのようなものがあるでしょうか。老眼鏡をかけるようになる、物覚えが悪くなる、忘れっぽい、体力が落ちる、肌のつやがなくなるなど、いろいろ思い浮かぶことでしょう。実は心臓から全身に送られる血液を流す血管(動脈)にも老化現象が起こります。それが「動脈硬化」なのです。
 
  動脈の老化現象により、さまざまな病気が引き起こされます。例えば、脳こうそく、脳出血、心筋こうそくなど。人間を含めて生き物は不死身ではありません。ですから老化現象は宿命です。どんなに医学が進歩しようとも、こればかりは避けられません。しかし、動脈の老化をなるべく進ませないようにしよう、という目標は持つべきですし、そのための注意や努力はきわめて大切なことのように私には思えます。
 
  動脈の老化を進ませる大きな要因で、年齢以外のものがはっきりわかっています。それは肥満、糖尿病、高血圧、高コレステロール血症などです。したがって、これらをきちんとコントロールすることで、先ほどの恐ろしい病気の発病をある程度は抑えることができるはずです。動脈の老化が原因で引き起こされる病気になりやすい状態をメタボリック・シンドローム(代謝異常症候群)と称し、最近よく耳にするようになりました。
 
  これにはしっかりとした「判定基準」がありまして、内臓脂肪蓄積(要するにお腹まわりが大きくなること)、脂質代謝異常(ごく簡単に言えば高コレステロール状態)、高血圧、糖代謝異常(高血糖)の4つが挙げられています。具体的な数値でいいますと、1.腹周囲が男性で85センチ以上、女性で90センチ以上。(最近、さまざまな基準が提唱されています。)2.採血で中性脂肪の数値が150以上 3.上の血圧が130以上、下の血圧が85以上。4.空腹時の血糖値が110以上。1の項目を満たし、かつそれ以外の項目で二つ以上が当てはまれば当症候群と診断されます。皆さん、いかがですか?外来でチェックされてみてはいかがでしょうか。
 
  最近、日常診療の中で特に強く感じることがあります。それは「動脈硬化のなりやすさは確実に遺伝するのではないか」ということです。たとえば、脳こうそくで入院された方にくわしくお話を聞きますとたいていの場合、ご両親やおじいさま、おばあさま、ご兄弟の中に脳卒中や心筋こうそくの方がいらっしゃるのです。ですから、もしあなたの身内にこのような病気の方がおられた場合には、あなた自身にメタボリック・シンドロームのチェックが必要になるといえるでしょう。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
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