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神経内科通信

2010年03月号 「糖尿病と動脈硬化」

  ご存知のように、最近では動脈硬化(血管の老化)が原因で起こる心筋こうそくや脳こうそくなどを何としてでも予防しようという運動が盛んになっています。このことは「メタボリック・シンドローム」が流行語のようになっていることからもわかりますね。肥満、高血圧、糖尿病、コレステロールの異常などが合わさると血管の老化を早めてしまい、結果として心筋こうそくや脳こうそくなどを引き起こしてしまうことは、ほぼ一般常識になりつつあります。
 
  さて、今回は糖尿病について簡単にお話いたします。平成19年に厚生労働省が行った発表によりますと、日本人の成人の6~8%が糖尿病であり、8~12%がその予備軍であるそうです。糖尿病は血糖が高いだけの病気なのだと思ってはいけません。平成3年から平成17年までの中途失明患者さんの失明原因では糖尿病が第一位で、人工透析患者さんのなんと45%が糖尿病を原因とするじん臓障害なのです。加えて、血糖のコントロールが悪い方はそうでない方にくらべて健康寿命が15年ほど短いことがわかっています。また、糖尿病未治療の方の半数以上が心筋こうそくを経験するとも言われます。そうなりますと糖尿病は、身体にとっては痛くもかゆくもない状態で、次第に身体中の血管をボロボロにしていくこわい病気なのだと考えて間違いなさそうです。
 
  最近は検診に熱心に取りくむ自治体や企業が増えて、糖尿病の早期発見がより簡単になりました。空腹時(つまり朝ごはんの前)の血糖が110以下が正常 の基準とされています。もし、空腹時血糖が126を超えていれば、その段階で 糖尿病と診断されます。しかし、最近では空腹時血糖よりも食後2時間の血糖値が重視されるようになりました。これが200を超えていれば糖尿病と診断さ れますが、ある研究によれば、食後2時間の血糖が140以上200未満の方は治療をしなければ、その5~10%は糖尿病になってしまうそうです。特に肥満傾向にある方は要注意だそうです。
 
  糖尿病治療の権威である久留米大学の山岸先生によりますと、糖尿病の良好なコントロールの指標として、空腹時血糖が130未満、ヘモグロビンA1C(エーワンシー)の数値が6.5%未満、食後2時間血糖値が180未満、検尿正常(詳しくいえば、尿にケトン体が出ていない)の4点を挙げておられます。
 
  糖尿病の治療目標は単に血糖を下げることではなく、放置することによって起こるかもしれない血管病を未然に予防することにあるのです。糖尿病は戦後もっとも増えた生活習慣病と言われています。みなさまも大いに感心を持っていただきたいと思います。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
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