神経内科通信
2010年06月号 「慢性頭痛の意外な原因(その2)」
前回に続き、慢性頭痛の意外な原因についてお話します。今回のテーマは「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)」です。最近、テレビや新聞で取り上げられる機会が多いので、この病気についてご存知の方がいらっしゃるかもしれません。
頭痛を専門としている私でさえ、これまでにまだ一例しか経験がないのですが、後ほどお話しするように、決してまれな病気ではないとされておりまして、多くの方がこの病気から来る頭痛に悩まれています。
さて、低髄液圧症候群とは聞き慣れない病名ですが、それもそのはずで、初めて発表されたのが昭和58年、海外においてでありまして、わが国では平成12年頃より徐々にその名が知られるようになりました。体内には脳やせき髄を保護する髄液と呼ばれる液体がありますが、この液体が交通事故やスポーツによるムチ打ち症など、比較的軽いケガにより漏れてしまい、(時に原因がはっきりしないこともあります。)頭痛をはじめとして数々の症状が出てきます。ある発表によりますと、何と日本全国に30万人位の患者さんがいるそうです。
頭痛は特徴的で、起き上がった際(起立時)に出現します。起き上がって15分以内に頭痛が出現、横になり、安静にしていると30分以内に軽快するといわれています。頭痛がする場所は前頭部と後頭部に多く、鈍痛だったり、ズキンズキンするような鋭い痛みになることもあります。時には頭全体や目の奥が痛むことがあり、片頭痛と区別がつきにくいことがあります。
頭痛のほかにもいろいろな症状がありまして、視野に霧がかかったようにぼんやり見えたり(霧視)、物がダブって見えたり(複視)、まぶしく見えたりといった目の症状をはじめ、めまい感、耳鳴り、音が非常にうるさく感じる、吐き気など実にさまざまな症状が表れます。しかし、どの病院で検査を受けても検査結果は正常と言われてしまい、患者さんは精神的にも苦しみます。
では、どのような検査がこの病気の診断に有用なのでしょうか? 残念ながら、市中の病院で一般的に行われる検査で異常を検出することはきわめて難しく、専用の検査機器のある病院を受診しなければいけません。要は検査によって髄液がもれているところをキャッチすればいいということになります。
治療法ですが、軽症であれば安静を保つ、多めに水分補給するなどの工夫で症状の軽快に結びつきます。(通常、2週間から4ヵ月間)時には入院の上、点滴をしたり内服を行うこともあります。他にも硬膜外自家血注入法といって、髄液がもれている場所に自分の血液を注入し、それをのり状に固めて、もれをふさぐ方法もあります。
( 文・神経内科 則行 英樹 )