神経内科通信
2021年8月号 熱中症と湿度
今年もまた熱中症についてお話をする時期を迎えました。毎年強調しますように、熱中症は命にかかわる病気です。ぜひとも理解をお願いいたします。
今回のテーマの切り口は「湿度(しつど)」です。ご存知のように、湿度とは空気中に占める水分の割合(パーセント)のことをいいます。湿度が高ければパーセントの数値は大きくなり、逆に湿度が低ければパーセントの数値は低くなります。熱中症、と聞きますとつい、気温(室温)のことばかり考えてしまいがちですが、実はこの湿度も熱中症の発症に大きく関与しています。
空気には面白い性質があります。空気は高い温度になるとたくさんの水分を含むことができ、逆に低い温度になると少量の水分しか含むことができなくなるのです。冬は空気が乾燥しがちですが、これは以上の理由によります。
夏になり気温(室温)が上昇しますと、空気はたくさんの水分を含みやすくなります。すなわち湿度が高くなります。では、湿度が高いと私たちの身体にはどのような変化が生じるのでしょうか。身体のまわりの空気中に水分がたくさん含まれますと汗が蒸発しにくくなります。そうしますと高くなってしまった体温を下げることが難しくなり、温度(室温)以上に暑く(時には暖かく)感じることになります。このことは夏場、直接太陽に当たっていなくても、あるいは天気が曇っていても蒸し暑く感じてしまう一つの要因となります。
それでは熱中症について復習しましょう。熱中症とは、体温が上がってしまったことがきっかけとなり、身体の中の水分や塩分のバランスが崩れたり、さらには体温の調節機能がうまく働かくなった結果、いっそうの体温の上昇やめまい感、けいれん、頭痛などのさまざまな症状を起こす病気でした。ここで大切なことは、「体温が上がる」要因は何も気温(室温)だけではないということです。湿度も大きな意味を持つことは理解していただけたことと思います。環境省の熱中症予防情報サイトによりますと、熱中症発病の3大要因として「環境」「からだの状態」「行動」が挙げられていますが、「環境」に気温が高い、湿度が高い、風通しが悪い、などが主な要因に挙げられています。
またそのサイトでは「暑さ指数」が紹介されています。暑さ指数とは身体と外気との熱のやりとりを数値化した指標で、湿度・身体周囲の熱環境・気温の3つを取り入れた指標です。暑さ指数計(WBGT計)は市販されています。
室内の適切な湿度は40〜60%とされています。これより低すぎますと皮ふやのどの乾燥が起きやすく、逆にこれより高すぎますとカビやダニが繁殖しやすく、同時に熱中症の危険性が増していきます。( 文・神経内科 則行 英樹 )