神経内科通信
2021年9月号 感染対策の大原則
異常気象のニュースに驚きや不安を感じる今日この頃ですが、新型コロナウイルス感染症の猛威もまだまだ留まるところを知りません。現在、感染力の強い変異株の流行が危惧されており、しばらくは感染の動向に注意が必要です。
今回は感染症対策に必要な知識の復習です。コロナウイルスに限らず、流行を引き起こす感染症対策の大原則があります。それは「持ち込まない」「持ち出さない」「拡げない」の3つです。とてもかわりやすいなと私は思います。
これら3原則の意味をよく考えてみますと、昨今頻繁に言われている「3密」を避ける理由がはっきりとわかります。たとえば、流行性の感染症に罹患した方がある集団の中に病原体を「持ち込む」と、その集団内で病原体をもらった方がそれを「持ち出す」ことになり、さらにはそれぞれの家庭や職場において病原体を「拡げる」という流れが成立してしまいます。その結果、クラスターやパンデミック(大流行)を引き起こすという最悪なシナリオが完成してしまうわけです。「持ち込まない」「持ち出さない」「拡げない」は非常にわかりやすく、かつ、今の時期に決して忘れてはいけない大切な教訓なのです。
連日、大人数での会食やカラオケでの感染(クラスター)の報告を見聞きにします。たくさんの人が一堂に会すれば当然、ひとり一人に悪気がなくても病原体を「持ち込む」「持ち出す」「拡げる」という流れを作る危険性がぐっと増してきます。これは感染対策を考えるうえで一番してはいけないことなのです。先日、数名が集まって食事をしたことを問われた大物政治家が、「あれは会食ではない。黙食だ」と発言した笑い話がありましたが、私はとても笑う気分になりません。このような気のゆるみがクラスター発生につながるのです。
国が発表する緊急事態宣言、まん延防止等重点措置。残念ながら、これらは直接的には感染予防に働きません。大事なのは「持ち込まない」「持ち出さない」「拡げない」という大原則を私たち国民が理解し、実行することだと思います。あくまで私見ですが、コロナ流行を完全に抑え込むのに有効なのは十日前後、人の動きを完全に抑えることです。そしてその期間が終わればいったん規制を緩和して通常通りの生活に戻します。そして感染者が増えればまた十日前後の規制。これ以外に感染爆発を収束させる手段はないように感じます。国の賢明な政治判断に期待したいところなのですが、どうなることでしょうか。
医療従事者は疲れています。そして医療崩壊はすでに始まっています。国や自治体の責任に言及することも必要ですが、その前に私たちの考え方、行動の仕方を見つめるべき時期なのかなと感じます。 ( 文・神経内科 則行 英樹 )