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神経内科通信

2022年3月号 前頭側頭型認知症

 認知症とは、脳に生じた病気や障害などによって認知機能が低下し、その結果、日常生活全般に支障が出てくる状態のことをいいます。さて、認知症、と耳にしますと、これは高齢の方々に特有の病気であると思われていませんか? 実はそれは誤解です。働き盛りの若い方々にも認知症は起こり得ます。六十五歳未満で発症する認知症は若年性認知症と称されますが、現在わが国に約4万人の患者さんがいるという統計があります。さて、若年性認知症をきたす病気には、脳に生じた血管病、ケガ、しゅよう、感染症などがありますが、これらからもたらされる認知症は、病気をきっかけに発病するために非常に診断がつきやすいのです。しかし一方で、最初から疑ってかからないと正体がなかなかつかめないタイプの認知症もあります。その代表が前頭側頭型認知症です。
前頭側頭型認知症。はじめて目になさる方もいらっしゃることと思います。この病気については、いまだその原因が十分に解明されてはいないのですが、脳の前方部分(この部分を前頭葉(ぜんとうよう)といいます。)の神経細胞が主に障害を受けて、その機能を次第に低下させていくのが特徴です。そしてこの病気の若年性認知症全体の占める割合は約4%と比較的少ないのですが、病気の初期に診断をつけることが非常に難しいとされています。その要因の一つに、病気になり始めの頃には記憶障害、すなわち「もの忘れ」がほとんど認められないことが挙げられます。記憶や知識が保たれる代わりに起こる変化は、性格変化と反社会的行動です。むしろこちらの症状のほうが大きく目立ちます。その症状の特徴を以下に記してみます。
 まず、患者さん本人に病気であるという自覚がありません。自分の身の回りのことや自分の身に起こる出来事、周囲の環境に対する関心が薄くなり(無関心)、時に相手に対してふざけたような態度をとります。日常生活では同じ行動をくり返す、たとえば同じ言葉ばかりを話す、同じ食べ物ばかりを食べる、毎日同じ時間に同じ行動を起こす、などが観察されます。しかし、一番深刻なのは反社会的行為に及ぶことがあるということです。万引き、他人に対する暴力行為なども症状の一部と考えられておりまして、テレビや新聞で見る壮年期の方の万引きや暴力事件の背景にはこの病気が隠れているのかもしれません。
残念ながら、前頭側頭型認知症を根治させる治療薬は今のところ存在しません。従いまして、なるべく早い段階で診断をつけること、そして適切なタイミングで社会的医療資源を有効に活用することが大切になります。もちろん、病気に対して偏見を持たないことも大事ですね。 ( 文・神経内科 則行 英樹 )
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