神経内科通信
2010年09月号 「自律神経失調症」
自律神経失調症という病名を聞いたことがない方はいらっしゃらないでしょう。あまりに有名であり、かつやっかいな病気の一つに数えられています。
自律神経とは何か、まずはそこからお話しましょう。人間のからだにはすみずみにまで神経が張りめぐらされていますが、その神経には運動神経、感覚神経、そして自律神経が含まれています。さて、この自律神経は「自分の意のままにならない神経」でありまして、呼吸、心臓機能(血液循環)、消化器機能(消化・吸収・排泄)、汗の分泌、体温調節など、生き物として基本となる生命機能を一瞬たりも休むことなく調節しています。そしてこの機能は原則として、それぞれを活発にする神経と落ち着かせる神経の絶妙なバランスによってコントロールされているのです。(交感神経と副交感神経とのバランス)
何らかの原因が作用して、このバランスが崩れた状態を「自律神経失調症」と呼ぶわけですが、その症状は人により十人十色でありまして、実に多彩です。
外来で多く見聞きする症状としては、下痢・腹痛・吐き気などの消化器に関するもの、動悸・立ちくらみといった循環器に関するものがあります。からだはしんどいのに消化器科病院や循環器科病院でいくら検査をしても、担当の医者から異常なしと言われて不安になる方が多いようです。
自律神経失調症の原因になり得る病気はかなりの数に上りますが(その中でも更年期障害は有名ですね。)、問診や検査によってある程度的確に見つけることができます。そして、その原因となる病気をしっかり治療することで自律神経症状が軽快するわけなのですが、問題になるのは内科でいくら調べてもハッキリと原因が見つからない場合です。聖路加国際病院の太田先生によりますと、そういう場合では精神的なストレスが引き金となるケースが極めて多いらしく、早い段階で心療内科を受診すべきだとおっしゃっています。
心療内科では担当医師がじっくりと時間をかけて問診を行い、患者さんの心にひそむストレスや不安の根っこをつかまえます。そして、クスリだけではなく、カウンセリングを行うことによって治ゆに導くのです。
太田先生が面白いことを話されています。ストレスや不安により自律神経のバランスを崩しやすい方に共通する特徴(個性)として、特にがまん強い性格でもないのに不平や感情をあまり表に出さない、ストレス発散の仕方が不器用、社会的には信頼され人柄が評価されている、といったケースが多いそうです。
ともあれ、患者さんはとても苦しんでおられますので、私は積極的に心療内科への受診をすすめています。
( 文・神経内科 則行 英樹 )